小谷元子理事・副学長が構想を説明

東北大学はこのほど、総合知を行動につなげ、持続可能な社会の実現に向けた取り組み「SOKAP」のキックオフシンポジウムを開催した。シンポジウムには会場とオンライン合わせて260人が参加、関係者の講演やパネルディスカッションが行われた。(長野康彦)
「社会に開かれたプラットフォーム」として立ち上げ
大野英男総長のあいさつと前欧州研究会議総裁のジャン・ピエール・ブルギニョン氏による基調講演の後、小谷元子理事・副学長がSOKAP構想を具体的に説明した。
小谷氏は「東日本大震災を契機として、21世紀の社会の中における大学の役割というものを改めて考え、より社会と共にエンゲージした大学としてやっていきたい」と述べ、「知恵知識の創造が大学の役割。20世紀まで大学が長い時間をかけて築いてきた知恵や知識をどう積極的に行動につなげていくかが重要。大学が閉じた形で行動可能な知恵を生み出すのは非現実的。オープンなプラットフォームである必要があり、そのためには行動可能な知識を生み出す、社会に開かれたプラットフォームが必要という結論になった」とSOKAP構想立ち上げの理由を語った。
小谷氏はSOKAPが「リサーチ(研究)、トレーニング(人材育成)、コネクト(社会と連携)、アウトリーチ(発信)」の四つの要素から成ることを説明。リサーチでは最先端の科学全般の研究を行い、トレーニングでは世代を超えた人材を育成、コネクトでは分野融合・共創型のプロジェクトを設計・実践するとともに、アウトリーチで産学官双方向のコミュニケーションの深化を目指すなど、SOKAPの全体像を明らかにした。
また、小谷氏は「大学の研究はそれぞれの学問分野ではなくて、総合知として使われることが重要。社会と共に課題を解決していくようなプロジェクトを実現し推進していく」と意気込みを語った。
次に山口昌弘副学長がSOKAPを人材育成の観点から説明。東北大学では「高等大学院機構」という機関を設け、大学院の研究科の壁を越え国境の壁を越えた先進的な横断型の学位プログラムを実施するなど、世界で活躍できる卓越した人材育成に取り組んでいることを強調した。
東北大学は国際卓越研究大学の候補に選定され、2024年度中には正式認定される見通しだ。国際卓越研究大学とは、世界トップクラスの研究を目指していると国に認定された大学で、政府が10兆円規模のお金を出してファンド(基金)をつくり、株式などで運用して出た利益を認定大学に配る仕組み。一つの大学に毎年、数百億円が配られると見込まれる。
質疑応答では、昔、同大学で研究者をしていたという参加者から「最近の大学はマスコミ受けばかり狙っている。昔の教授・先生は国家のことを考えて仕事をしていた。現状を続けることは税金の無駄遣いにほかならない。世界に勝てない」との厳しい批判が飛び出す場面もあった。
続いて、SOKAP-Researchの事例として大学院工学研究科の平田泰久教授が研究内容を発表。足こぎ車椅子の開発や、「AIロボットをメガネのように自由自在に使える世の中を目指す」としながら、介護分野をモデルケースに社会実装する試みを紹介した。
後半のパネルディスカッションでは、日立製作所や富士通など民間会社の代表によるサステナビリティー・トランスフォーメーション(SX)実現のための課題や、その解決に向けた社会と大学の連携について活発な議論が行われた。学生起業家として里山エンジニアリングというベンチャー企業を立ち上げた工学部4年生の北川桜子氏は、開発中の地産地消型の蓄電池「ウッドバッテリー」を紹介。
東日本大震災後の計画停電を契機として電気の地産地消に興味を持った経緯を話し「電気の地産地消のカギは里山にあると考えた。里山資源と工学を掛け合わせたものづくりで里山を豊かにしていきたい」と述べた。北川氏は、ウッドバッテリーはレアメタルを使わない有機蓄電池として自然環境にも良く、10年後の商品化を目指すとしながら、材料調達から生産・販売・消費を同じ地域で完結するような持続可能な社会を実現していきたいと抱負を語った。
用語解説
【総合知】人間・社会・自然などの多様な側面を総合的に理解し、論理的に考え、判断する能力。一つの専門分野だけでなく、自然科学、人文・社会科学、さらには地域社会、企業・行政、文化・芸術など幅広い領域の知見を統合した知。
【SOKAP】「SustainabilityOpenKnowledge-ActionPlatform」の略称で「持続可能性開かれた知識行動プラットフォーム」の意。従来の枠組みを超えた「社会と共にある大学」を目指す取り組み。
【SX】不確実性の高まる環境下において、社会および企業のサステナビリティー(持続可能性)をより重視した経営を行う、という考え方。