笹川スポーツ財団が調査
と岡田千あき教授=7月31日、東京都港区の日本財団ビル.jpg)
子供がスポーツ活動をするに当たり、母親の負担の大きさが原因で続けられない、または、敬遠するケースが増えていることが、笹川スポーツ財団が行った調査で明らかになった。少子化が進み、子供たちのスポーツ離れに歯止めがかからない中、安心してスポーツを楽しめる環境づくりが求められている。
求められる安心して楽しめる環境づくり
笹川スポーツ財団は2021年9月に、小学校1~6年生の第1子を持つ母親を対象に、子供のスポーツ活動に対する保護者の関与の実態や意識についての調査を実施し、2022年2月に調査結果を公表した。全国から集まった有効回答数は各学年男女200人ずつの計2400人。
調査結果によると、スポーツ活動への関与に約8割の母親が「やりがい」を感じている一方で、「負担」と感じる割合は約3割と少数派だった。ただ、飲み物の用意やユニホーム洗濯、送迎など「当番」の負担を理由にスポーツ活動を敬遠する母親は26・6%にも上った。
子供のスポーツ活動において「母親の負担が大きいと感じる」ものの上位3項目は、「指導者や保護者の送迎をする」(66・7%)、「練習や大会等で、指導者・保護者の食事や飲み物を用意する」(64・4%)、「大会等で、保護者や関係者が観戦する場所を確保する」(62・0%)の順だった。当番に対する大変そうなイメージによって、「スポーツが選ばれない」家庭が生まれている可能性が示唆された。父親と母親の関与の違いも浮き彫りになった。子供のスポーツ活動に対し「母親の方が熱心」と回答した割合は73・7%だった。
この結果に基づいて、「子どものスポーツへの保護者の関わり」と題するセミナーが7月31日、都内で開かれ、スポーツ団体の役員やコーチなどが参加。「持続可能な子どものスポーツ環境の構築に必要なことは何か」を、支える側の視点で議論した。
シンポジウムには、スポーツをする子供を持つ母親を代表し、笹川スポーツ財団スポーツ政策研究所政策ディレクターの宮本幸子さんが登壇した。宮本さんは、「送迎、購入、飲食の手配、連絡・情報共有のどれを取っても母親が多くを担っており、役割を巡って多くの母親が葛藤している」と述べ、支えられない家庭の子供がスポーツから離れていく実態を見てきたという。また、スポーツを続けられることと「世帯年収や母親の就業状況との相関がはっきりしている」とし、「共働きが当たり前の時代になっても応援やケアは母親がするものという構造が続いている」と現状を変える必要を訴えた。
ただ、「スポーツ(クラブ、部活)の仕組みを変えるのか、社会の意識を変えるのか、特効薬のような解決策はない」と言い切った。
専門家の立場からは、大阪大学大学院人間科学研究科教授で日本スポーツ社会学会理事の岡田千あきさんが登壇した。岡田さんは、「レジャーが多様化している上に、少子化の問題がある。ライフワークバランスの変化で、これまで中心にいた人がスポーツを支えられなくなっている」と指摘した。調査結果については、「ここまで母親の負担が多いことかと改めて実感した」と述べた。
「子供と直接関わらない対指導者、対保護者での負担感が大きい」。こう話す岡田さんが問題視するのはやはり、当番の問題だ。「子供を試合で使ってもらおうと思うと、親が当番をしないといけないという圧力を感じる。これでは、まるで子供が人質に取られているようなものだ」と苦言を呈した。
全日本軟式野球連盟が今年6月6日付で、「学童チームへの保護者参加についての考え方」と題する通知文を掲載した。岡田さんは、この文面を読み解くと、「(当番の)強制や同調圧力があることと、サポート体制を理由にチームを辞めるケースがあることも暗に認めていることが分かる」と解説した。
岡田さんは、「スポーツの場が心地よければ支える人はいる」という考えの下で、「保護者以外のアクター(学校、地域、指導者、企業、大学など)を増やすことが重要」だと強調。その上で、岡田さんは生涯スポーツが盛んなオランダや香港など海外の子供のスポーツの事例を紹介、「日本では子供のスポーツは競技スポーツ主体」だが、趣味としての生涯スポーツの競技人口が増えれば、頂点のプロスポーツも盛んになると、期待を示した。
参加したスポーツ団体コーチの男性は、「少年野球チームが激減し、スポーツを支えるシステムが劣化している。親の負担を減らすためにも、地域の企業に支援を求めてはどうか」と提案した。子供のスポーツが勝利至上主義になり過ぎる傾向を見直すべきだとの意見も出た。