大学・企業も採用に前向き
IT時代に即した人材育成も

高度経済成長期に工業技術者の養成を目的に創設され、企業の現場を支えてきた高等専門学校(高専)が60年を超え大きく転換している。IT産業の発展に伴いサイバーセキュリティー部門、地方創生への寄与だけでなく、起業、経済のグローバル化に応じた人材育成もするようになっている。また、高専卒業後の進路も6割が製造業や情報通信産業、建設業などに就職する。高専内で研究を続ける専攻科、理工系大学への進学者も増えている。(太田和宏)
5年間高専で学んだ卒業生の6割が製造業や情報通信産業、建設業などに就職する。「即戦力として十分な技術を持ち、若いため企業の文化に染まりやすい」「頭でっかちの大学卒業生より、手足を動かし、考え、分からないところは質問に来る高専卒業生の方が仕事を覚えるのが早い」――。毎年高専卒業生を受け入れている企業関係者は行動し、考え、結論を得る高専卒業生を信頼する。
大学編入学など進学した学生に対しても、修士卒なら高専、大学、大学院で4~6年間の研究活動を経験してから企業に就職することになる。「普通に大学受験した学生に比べて倍以上の研究経験があり、深い専門知識を持っている」企業の評価は至って高い。
高専1期生の大学への編入者は卒業生の2%程度だったが、2020年度は23%まで増加している。東京大学工学部や東京工業大学などは高専卒業生を対象とする学部への編入試験制度がある。高専生は本科(5年間)卒業時に6割が就職する。高専卒業生がさらに学ぶ専攻科(2年)への進学率も16%程度あり、大学2~3年生への編入と合わせると約4割になる。
少子化が進み、多様な人材を求めている大学側、特に理工系は、高専卒業生の編入を歓迎している。高校の理科系コースで受験勉強を越えて入学した“頭でっかち”の学生より、専門教科、実践的な学びをしてきた高専卒業生の方が課題への取り組み方がしっかりしているからだ。高専からの編入者と刺激し合いながら研究に打ち込んでいる。

高専生の挑戦姿勢の源になっているのが、毎年年末に全国大会がテレビ放送される、全国高等専門学校ロボットコンテスト(通称高専ロボコン)だ。1988年から始まったもので、既成概念にとらわれず「自らの頭で考え、自らの手でロボットを作る」ことの面白さを体験してもらい、発想することの大切さ、物作りの素晴らしさを共有してもらうというものだ。
優秀な高専卒業生を求めて大学側は編入制度にも力を注いでいる。高校から東京大学を目指すには大学入学共通テストや推薦入試を越えなければならないが、高専生はこれらの過程を経ずに編入できる。東京大学工学部編入募集要項では、受ける学科によって多少異なるが「英語・数学」や「英語・数学・物理」で受験できる。試験範囲が異なるので、一概に一般高校生の入学試験と対比できないが、かなり優遇されている。
理屈よりも、とにかく試してみる。うまく動かないところは担当教授に聞いたり、インターネットで調べたり、仲間内で議論したり、トライアル・アンド・エラーを通して技術を自分たちのものにしていっている。
高額な授業料が高専生の大学編入への大きなネックになっている。東京都市大学は4月から国公立の高専から推薦で編入する学生の授業料を約148万円から約37万円まで75%減免している。国公立大学の標準授業料約54万円を下回る額に設定した。このことにより今年度編入する国公立高専生は昨年の4人から16人に増えたという。