沖縄大学がオンラインでシンポ開催

沖縄県の沖縄大学はこのほど、「子どもたちの抱える課題をスクールソーシャルワークの視点で考える」と題したシンポジウムをオンラインで配信した。社会福祉士の知念恵美子氏や、那覇市立寄宮中学校の松田孝校長(令和5年度小禄中学に転任)らが登壇し、子供を支援する上での課題や、学校現場での支援の取り組みなどについて講演した。(川瀬裕也)
「家庭の事情をよく知ること」 社会福祉士の知念恵美子氏
「大学生交えて学習補助も」 那覇市立寄宮中校長の松田孝氏
子供たちの不登校や非行、いじめなどは全国的な社会問題となっている。それらの問題の背景には家庭の貧困や虐待、親の病気などさまざまな問題が影響し合っているとされている。これらの子供たちを理解するためには、目の前の現象(不登校や非行など)だけにとらわれず、子供たちの置かれた生活環境も含め、家族も含め多角的な視点で支援していく必要がある。これらの役割を担うのがスクールソーシャルワーカーだ。
那覇市のスクールソーシャルワーカーとしてこれらの問題に携わってきた知念氏は、「子供への支援がうまくいくかは家族との信頼関係を構築できるかが鍵となる」と指摘する。
子供への支援が難航していた家庭を例に挙げ、子供本人だけでなく親とも向き合ってみたところ、身近に頼れる人がいなかったことや、アルコールの課題を抱えていたこと、父親が定職に就いていないことなどが浮かび上がったという。学校と連絡を取らず関係を悪化させていたという母親も、「ソーシャルワーカーが時間をかけ信頼関係を構築したことで普通の会話ができるようになり、最終的には子供を交えた対面支援ができるようになった」と成果を強調。
この家庭を担当したソーシャルワーカーは、母親に対し、「(面談を)ドタキャンされても怒らない」ことや、夜仕事をしているので「お酒を飲んでいる時は電話しない」「小まめに手紙を書く」などを心掛け、寄り添うようにしたという。知念氏は「子供だけでなく、その家族の立場も尊重し、実践していく一連のプロセスが『この人だったら大丈夫かな』という気持ちにさせ、信頼関係構築につながった」と締めくくった。
続いて松田氏は、寄宮中における不登校課題を抱える生徒支援への取り組みについて講演した。松田氏も知念氏同様、生徒へのアプローチだけでなく家庭へのアプローチ、加えて教師へのアプローチの3点が重要だと指摘した。
松田氏によると、同校の不登校生徒数は「コロナウイルスの影響も考えられるが」令和元年以降増加傾向にあり、令和4年2月末時点で53人だった。
そこで内部支援として不登校生徒指導の教室と担当教員を配置。市に教育相談支援員と生徒サポーターを要請した。また外部支援として、那覇警察所少年課のスタッフや県内大学生によるボランティア、地域のボランティアに協力を要請し、子供たちの居場所づくりや学習補助などに努めているという。
また家庭へのアプローチとしてスクールソーシャルワーカーや児童相談所などとの協力で保護者へのカウンセリングや引きこもり支援などを強化。教師へのアプローチとしては、教育委員会から心理士を招いての学年別ケース会議や、沖縄大学教授を講師に招いた支援教育「子供寄り添い支援員スーパービジョン」の実施などに取り組んだ。その結果、24人の生徒が登校復帰したという(3月18日時点)。
松田氏は、「(子供たちの支援は)学校の先生方だけでは厳しい。スクールソーシャルワーカーや専門機関の方々の力を借りて一丸となって取り組まなければならない」と語った。
寄宮中と連携して支援を行ってきた沖縄大学福祉文化学科の名城健二教授は、「(支援活動は)中学生たちに効果があるだけでなく、ボランティアを行う学生たちにとっても学びになっている」とし、「(沖縄大と寄宮中は)支援活動の良いモデルになっている」と評価した。
沖縄県は全国と比較して、ひとり親家庭が多く、大人の代わりに家族の世話や家事を担う「ヤングケアラー」は全国調査の2倍近く存在する。これに加え経済困難や虐待などの問題を抱える子供も存在する。助けを必要としている子供たちに寄り添うスクールソーシャルワーカーと関係機関のより一層の活躍が求められる。また、支援を充実させるための国と自治体の支援も必要不可欠だといえる。