トップ社会教育「家庭」と「学校」を兼ねた生活空間 児童自立支援施設「北海道家庭学校」

「家庭」と「学校」を兼ねた生活空間 児童自立支援施設「北海道家庭学校」

6月11日に開かれた北海道人格教育協議会の教育フォーラムで講演する仁原正幹理事長(中央奥)

家庭や学校、地域に居場所をなくした子供たちを支援する国公立の児童自立支援施設が全国各地にあるが、私立の施設は2カ所のみ。そのうちの一つが北海道遠軽町にある。100年以上も前に開設された社会福祉法人北海道家庭学校。民間の教育団体である北海道人格教育協議会(会長=山谷敬三郎・北翔大学学長)はこのほど、同校理事長の仁原正幹氏を講師に招き、同校の理念やこれまでの歩みを聞くことで、教育の在り方を論じ合った。(札幌支局・湯朝 肇)

居場所なくした子供の自立を支援

北海道人格教育協フォーラムで仁原理事長が感化教育事業を紹介

「居場所をなくした子供たちが安定した暮らしの中で成長していくには、生活空間と生活時間の全てにおいて『家庭』と『学校』を兼ねた要件が大事になってきます」

こう語るのは北海道家庭学校の仁原正幹理事長。6月11日、札幌市内で開かれた北海道人格教育協議会の教育フォーラムで講師に招かれた同理事長は、同校の独自の感化教育事業を紹介した。

北海道東部の遠軽町内にある北海道家庭学校の特徴の一つは、その広さにある。430㌶(東京ドーム93個分)の丘陵に学校校舎の他、牛舎、博物館、バター・チーズ工房、礼拝堂、そしてスキー場まで有する。大正3年(1914年)、創設者の留岡幸助が国有林1千町歩の払い下げを受け、事業を展開していった。「全国に国公立・私立の児童自立支援施設が58ありますが、簡易リフトまで付いたスキー場があるのはここだけでしょう」と笑いながら語る。

児童自立支援施設は、児童福祉法に基づく児童福祉施設の一類型で、児童養護施設、児童心理治療施設、里親などで対応できない児童や、児童虐待などにより「社会的養護が必要となった児童」の受け皿となっている。また、中には不良行為などで家庭裁判所の審判により児童自立支援施設へ送致となるケースもある。言ってみれば対応の難しい児童の「最後の砦(とりで)」のような存在が児童自立支援施設。ただ、少年司法分野の少年院とは指導手法が大きく異なる。

少年院は自由に建物から外に出ることはできないが、児童自立支援施設は外から鍵を掛けるといった拘束はしない。従って、北海道家庭学校も門には鍵が掛かっておらず、児童たちの出入りは自由。現在、同校では13人の児童が暮らしており、寮周辺の草刈りから畑、ハウス、牛舎の管理から寮舎内の清掃など一日の作業をこなす。

毎日曜日は礼拝が義務付けられている。さらに年間行事として花見、マラソン、相撲大会、学習発表会、スキー大会など多彩なイベントがあり、集団活動を基本として感化教育が実施されている。

そうした中で、同校のもう一つの特徴は小舎夫婦制の採用。敷地内には五つの寮がある。そこでの寮長・寮母には夫婦が採用され子供たちの日常の世話を担っている。

仁原理事長は、「施設にやって来る子供の中には家庭環境に恵まれず、両親との間で愛着関係が十分に形成されなかった子供が多くいます。そうした子供たちに寮長・寮母が父親代わり、母親代わりとなり疑似家庭のような環境の中、細やかに愛情深く接することで、寮長・寮母との間に温かな愛着関係が生まれ、それが子供たちの心身の成長に良い効果がつながってきます。当校では創立以来この制度を採用しています」と語る。小舎夫婦制はかつて全国の児童自立支援施設で採用していたが、時代の変遷とともに減少していったという。

この日のフォーラムで主催者の山谷会長は「北海道家庭学校が『学校』であり『家庭』であることを目指すのは、家庭にも学校にも恵まれなかった子供たちに教育を授け家庭愛を感じてほしいという願いがあると分かりました。さらに本来的な教育の根幹がそこにあるべきだろうとも感じます」と感想を述べた。

今後の北海道家庭学校の運営について、仁原理事長は「少子化と非行少年の減少で近年、入所児童数は減少傾向にありますが、平成10年度の法改正によって対象児童の範囲が広がりました。被虐待経験や発達障害による課題を持った児童も対象となり増加する傾向にあります。これまでのような集団的指導に加えて各児童の綿密な指導が必要となってくると思います」と述べ、豊かな自然環境の中で児童一人ひとりに寄り添った教育への取り組みを考えている。

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