トップ社会教育沖縄県名護市 名桜大学が健康情報科学科新設へ

沖縄県名護市 名桜大学が健康情報科学科新設へ

来年度の開設記念し、シンポジウム開催

データサイエンスが健康に果たす役割について、パネリストが話し合った6月4日、沖縄県浦添市の国立劇場おきなわ

2023年度、公立名桜大学(沖縄県名護市)に健康情報学科が開設される。この機運を高めようと、同大はこのほど、同県浦添市の国立劇場おきなわで「データサイエンスが何を変えるのか」をテーマにシンポジウムを開催し、専門家らが議論した。(沖縄支局・豊田 剛)

データサイエンスで健康長寿取り戻す

名桜大学に来年度、3学科が新設される。そのうちの一つが健康情報学科。数理・データサイエンス・AIの手法を駆使し、保健・医療・福祉などの健康分野、さらには金融、観光、飲食、公務員など社会全般にわたる分野でデータ分析をすることで新たな価値やサービスの創出に貢献できる人材を育成する。

シンポジウムの主催者あいさつで、砂川昌範学長は「新学科の設置は内閣府が提唱している『ソサエティ5・0』の理念に適(かな)ったものだ」と説明した。「ソサエティ5・0」が目指すのは、経済発展と社会的課題の解決の両立だ。砂川氏は新学科によって「予防検診、ロボット介護、健康寿命の延伸や社会コストの削減が期待できるだろう」と述べた。

講演する本村純准教授

基調講演は、同大学の人間健康学部・本村純准教授が「長寿県復活の鍵を握るデータサイエンスやんばるプロジェクト検診」と題して行った。冒頭、健康寿命ランキングに触れ、「沖縄はもう長寿とは言えない」と危機感を表した。2017年、東京大学の渋谷健司教授(国際保健政策学)らの研究チームが独自の統計手法で算定した研究結果によると、2015年時点の平均寿命(男女平均)は沖縄は81・9歳となり、1990年に比べて平均寿命は3・2歳延びたものの、都道府県別の順位は46位だったことが分かった。死亡率の減少幅は22・0%で全国最下位だった。この結果を受け、本村氏は「平均寿命と健康寿命を本当に延ばせるのかが問われている」と語った。

本村氏は、病気の予兆を事前に察知する健康診断を沖縄本島北部のやんばる地域で実施している。特定健診の項目から、脂肪肝のリスクを予測するスマホアプリの開発に取り組むなど、データを活用した健康長寿の延伸を目指しており、30代や40代になって健康の大切さに気付いても遅いと指摘。健康についての知識を日常生活に落とし込みながらヘルスリテラシーを高めることが大切で、こうした取り組みが医療費や介護費用の削減につながるとした。

講演する高山義浩医師

引き続き、感染症が専門の沖縄県中部病院・高山義浩医師がデータから見た新型コロナウイルス感染の現状などについて講演した。高山氏は、日本では新型コロナウイルス感染予防を強調するあまり、人と人の距離ができてしまうことに警鐘を鳴らした。沖縄県は、新型コロナウイルス感染者数が全国平均を上回る一方で、死亡者数は低く抑えられていることを紹介し、「どのようにデータを見るかが大事だ」と述べた。

高山氏は、医療機関がコロナ患者用に病床を増やした結果、非コロナ病床占有率が100%に近くなり医療が逼迫(ひっぱく)している現実を伝え、コロナに偏った情報発信になり過ぎてはいないかと警告した。また、沖縄で急速に高齢化が進んでいることについて、「データに基づく施設整備を進めなければ高齢化社会への対応は厳しくなる」と訴えた。

後半のパネルディスカッションでは「データサイエンスは何を変えるのか」をテーマに、講演した2氏にSDGsデジタル社会推進機構の木暮祐一事務局長とハウス食品グループ本社デジタル推進部の西岡徹夫部長が加わった。

小暮氏は、「世界ではスマホを用いてオンライン医療を受けられるのが当たり前になっている」とし、ヘルスケアの分野でデータを活用するなどDX(デジタルトランスフォーメーション)が始まりつつあると説明。「名桜大学の新学科設置はタイムリー。大学がその人材育成をしていくことが時宜にかなったことだ」と述べた。

西岡氏は、データサイエンスを用いた食生活と健診ビッグデータの関係を分析する中で、個別化された食の提供や食事管理をしている。低栄養で筋肉量が減る「フレイルサイクルをいかに断ち切るかが大切だ」と強調した。

シンポジウムに参加した医師の男性は、「診療の中でビッグデータが使えるようになることが理想的で、データが活用できる人材が育てば間違いなく医療が良くなる」と話し、名桜大の新学科に期待を示した。

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