核家族化が進行する中、近年、児童への虐待・育児放棄が増加するなど家庭の教育力低下が叫ばれている。そうした中で旭川家庭教育を支援する会(会長・東国幹〈あずまくによし〉衆議院議員)はこのほど、市内の小・中学校校長会や子育て・教育ボランティア団体に対して家庭教育支援条例案を示すとともに、家庭や学校を取り巻く課題についての意見交流会を持った。(札幌支局・湯朝 肇)
「旭川家庭教育を支援する会」が意見交流会を開催

「児童虐待が話題となる今日的な状況の中で、家庭教育の重要性が叫ばれるが、家庭教育を実施する家庭が教育に資する家庭になっていない。多様化する社会の中でさまざまな家庭があって千差万別。そうした中で、どの家庭も納得し得る条例を作るにはどうすべきなのか、皆様のご意見を伺いたい」――こう語るのは旭川家庭教育を支援する会の東会長だ。
今年1月15日に旭川市内で開かれた同会主催の「教育関係者による意見交換会」のあいさつの中で同会長は「新型コロナウイルスによる感染拡大の中、学校はタブレットやパソコンなどの情報端末を使ってオンライン授業を行っている。一方、家庭を見ると、親や保護者は共働きで家におらず子供だけという状態だ。ある意味で緊急事態の中、そうした状況に対応する家庭と学校の間の環境整備ができていないのが実態ではないか」と現状への疑問を投げ掛けた。
旭川市における学校・地域・家庭の連携を基礎にした家庭教育支援条例の早期制定を訴えた。この家庭教育支援条例の制定については昨年9月、実施された旭川市長選挙で当選した今津寛介市長の公約となっている。
条例案を作成、多様化する家庭教育問題の処方箋に
この日の意見交流会を開催した旭川家庭教育を支援する会は、地域全体による協働の子育て・人づくりを進め旭川市における家庭教育の支援と推進および家庭教育支援条例の制定を趣旨に令和2年7月に設立した。
意見交流会には旭川市から同市総合政策部、子育て支援部、教育委員会の他、旭川小・中学校校長会、私立幼稚園協会の他、いのちを考える懇談会などのボランティア団体、さらに市議会議員4人が参加。条例案を作成した旭川家庭教育を支援する会の上松丈夫相談役(元中札内村教育長)は、全18条から成る条例の趣旨について次のように話す。
「子育てなどに対する保護者の不安、いじめや不登校、児童虐待など旭川市内でも懸念される問題が生じている。こうした事態に対して子育てへの不安を解消し、次代を担う子供たちが健やかに育つ環境づくり、とりわけ家庭教育への支援を推進することが求められている」とした上で、「保護者が家庭教育に対する責任を自覚し、その役割を果たすとともに、安心して家庭教育を行えるよう行政、学校、地域、事業者が一体となって支援することが重要だ」と説明する。
条例案では、目的、基本理念の他、保護者、学校、地域住民、事業者の役割の他、保護者への親としての学びの支援や多様な家庭環境に配慮した支援の在り方が示されている。
特別な配慮やICT教育など、さまざまな課題を共有

意見交流会では、「私が高校教師をしていた30年前、問題行動を起こした生徒の保護者を学校に呼ぶと、『私は行きません。私では手に負えません』と答える親御さんが中にはいたが、現在は珍しいことではないという。子供の数は減っているが、特別な配慮の必要な子供は増えている。家庭教育のありようが大事だが、そういった課題を抱えている家庭にも手を差し伸べることのできるよう力添えをいただきたい」(宮崎啓・旭川民間保育所相互育成会理事長)といった要望が出された。
また、「ここ数年ICT教育が進んで全市の子供たちにタブレット端末を提供している。子供たちはある意味で“デジタルネイティブ”といっていいが、親の方がついて行けない。親世代としては家庭でどんなルールを作っていけばいいのか、親を含め教師自身も勉強しなければならない」(石前聖香・旭川小学校校長会事務局長)などといった意見が出された。
現在、家庭教育支援条例は全国9県6市(令和3年6月時点)で成立している。道内ではまだ整備されていないことから制定に至れば道内初となる。少なくとも家庭教育は家庭だけに任せる問題ではなく学校、地域、さらには事業者が一体となって、同じ目的に向かって取り組まなければならないことは間違いない。