「拉致監禁の問題は、今もはっきりとクリアに解決したわけではない」
世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の信者の麻森智江さん(仮名、東京都在住の50代女性)はそう強調する。麻森さんは献金などを心配した両親らから2度にわたり、棄教目的でアパートなどの部屋に閉じ込められた。

親族らを指導していたディプログラマー(脱会屋)の牧師から、監禁中に座布団で頭を叩(たた)かれることもあった。だが、最もショックだったのは、両親たちが目の前の牧師の暴力に対し、うつむいて見て見ぬふりをしていたことだ。
脱会屋側の、「信者はマインドコントロールされており、『保護説得』『救出』のため監禁という手段を取らざるを得ない」という主張に対し、麻森さんは「『子供を思う愛情ゆえ、説得して救い出そうと閉じ込めた』と弁解する割には、牧師に一任して何も口を挟まないという矛盾した状況だった」と憤る。
警察が棄教に協力
さらに麻森さんは、自身の監禁に警察関係者も協力していたと話した。最初の監禁では「親族の一人が警察のOBと知り合いで、相談を受けたそのOBが協力に応じ、情報提供などを行っていたようだ」と打ち明ける。
2度目の監禁直前にも、警察に対して落胆する出来事があった。ある日、うっかり財布を落としてしまい、警察署に届けられたことがあった。受け取りに行ったところ、警官が「異様な目つき」で麻森さんを見ていた。
後になって「両親が警察署に事前に電話して、何月何日に娘を『保護』するので、それなりに対応してほしいと根回ししていた」ということを知った。つまり、もし麻森さんがアパートの部屋の中から叫び声を上げるなどして、近隣住民が通報したとしても「警察は取り合うな」というやりとりだ。
警察が家庭連合信者の拉致監禁被害を2度も黙殺する状況を経験したことで、「言っても無駄」という諦めが先立つようになった。実家で兄に突き飛ばされて階段から転落し、骨折という大けがを負った今でも「警察に経緯を説明する上で、信仰の話をせざるを得ない。そうなると、このご時世で、警察がどちらの肩を持つか分からない」という思いを拭えなかった。
「このような事例は私以外にもあるかもしれない」
社会の水面下で信者に対する暴行が起きていないか、麻森さんは懸念している。

また、今回唯一の目撃者でもある、麻森さんの妹の夏美さん(仮名)によると、兄は夏美さんだけでなく両親に暴力を振るったこともあったというが、「これまで姉とは暴力沙汰はなく、むしろ家族の中で一番コミュニケーションが取れていたはずだった」ため、姉に暴力を振るったことに驚きを隠せなかった。
夏美さんは「姉は2階の兄の部屋から『酒のにおいがした』と言っていた。母がいなくなって食生活が乱れ、アルコールに依存気味だったのかもしれない」とも指摘。姉を突き飛ばした直後に見た兄は「目つきが鬼だった」と顔をしかめる。
批判資料どこから
仏壇の前には家庭連合に反対する弁護士・ジャーナリストの書籍や記事のコピーが置かれていたが、「兄の性格を考えた時に、わざわざ印刷までして取っておくだろうか」と首を傾(かし)げる。過去に親が麻森さんに対して拉致監禁による強制棄教を迫っており、兄も勉強会に参加している。脱会屋のネットワークを通じて信者家族の名簿に記載されているはずだ。資料が送付されるなどの働き掛けがあっても不思議ではない。
安倍晋三元首相の事件を引き金に起きた洪水のような教団批判報道。文部科学省の解散命令請求に向けた元信者や信者家族からの証拠集めに脱会屋と関係の深い全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)などが協力した。
「確かにまじめで几帳面な人だが、自分で考えて動くのは得意ではない」と兄について説明する夏美さんは、「もし誰かから資料を受け取り、統一教会についてこうだと教えられたら、そのまま受け取ってしまうかもしれない」との見解を示した。
その上で、「兄も言葉にできない言い分があるのだろう。宗教への偏見だけでなく、いろんな言葉にできない思いが入り混じり、積み重なって爆発してしまったのではないか。素直に謝ることができず、自分で自分を追い込んでいる」と嘆いた。(信教の自由取材班)






