トップ社会「解散」が脅かす信者の人権(上)家族の暴力、命の危機に 逆上した兄に階段から突き飛ばされ

「解散」が脅かす信者の人権(上)家族の暴力、命の危機に 逆上した兄に階段から突き飛ばされ

 世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の宗教法人解散が最高裁判所の特別抗告棄却により確定してから1カ月が過ぎた。最高裁は6月22日付で下した決定の中で、教団信者に与える精神面の影響も「必要でやむを得ない」としている。しかし、教団への負のレッテルから信者に生じ得る「影響」について配慮はあったのか。ある2人の女性信者は、教団を批判する家族から受けた暴力により骨折する大けがなどを負った。信者の人権が脅かされている。(信教の自由取材班

兄に階段から突き落とされた世界平和統一家庭連合の信者の麻森智江さん(仮名)=1日午前、東京都(石井孝秀撮影)
兄に階段から突き落とされた世界平和統一家庭連合の信者の麻森智江さん(仮名)=1日午前、東京都(石井孝秀撮影)

 「殺されるかと思った」

 家庭連合信者の麻森智江さん(仮名、東京都在住の50代女性)は、東京高裁決定により教団に対する宗教法人清算手続きが始まった今年3月の下旬ごろ、実家の2階で信仰を巡って兄と言い争いになった。口論に終わりが見えず、切り上げて2階から階段を降りようとしたところ、兄から突き飛ばされた。

 麻森さんは20代の頃に教団へ入信したが、過去に2度、両親や親戚らから強制棄教を目的とした拉致監禁の被害に遭った。

 現在、父親は既に亡くなり、母親も認知症のため施設へ入所。麻森さんの実家には、兄が数年前から1人で暮らしていた。監禁された当時、兄は両親ほど積極的に強制棄教の試みには携わっていなかったが、自動車の運転などのサポートはしており、ディプログラマー(脱会屋)主催の勉強会にも出席していた。

 「やめてないのか」

 3月下旬、妹と一緒に墓参りをした麻森さんは、そのまま実家へ立ち寄った。施設の母親が3月初めに手術したが、兄と連絡が取れず、直接実家に足を運んでも居留守を使った様子だった。

 実家の玄関は数年前から接着剤のようなもので鍵穴をふさがれ、麻森さんの持っていた合鍵は使用できなくなった。やむなく裏のベランダから家に入り、兄のいる2階へ行って部屋を開けた。

 麻森さんは当時の状況について「兄は大きな足音を立てて私の目の前に立つと、『お前まだ教会やめてなかったのか』などと言い出した。やめたと一度も言ったことがないのに、兄がそう思っていたことに驚いたが、兄は『自分は知っているんだ!』『出てけ!』と怒鳴るばかりだった」と振り返る。

 母親の手術やその後の経過についても伝えたが、「だから何? オレには関係ない」「もう関わりたくない」と連呼するばかりだった。

1階で見ていた麻森智江さん(仮名)の妹の証言によると、兄に突き落とされた麻森さんは階段を滑り落ち、壁に激突したという。
1階で見ていた麻森智江さん(仮名)の妹の証言によると、兄に突き落とされた麻森さんは階段を滑り落ち、壁に激突したという。

 上着のフードを被(かぶ)った兄は麻森さんの右腕をつかむと、腕をつかんだまま階下へ降ろそうとした。危ないので腕を振りほどき、そのまま階段を降りようとしたところ、兄に後ろから突き飛ばされて落下。尻もちをつくような体勢で滑り落ち、階段の壁に激突した。それでも兄は怒りが収まらなかったのか、階下に降りると1階で待機していた妹の顔も殴り付けた。

 必死に起き上がった麻森さんが2人を仲裁すると、兄は2階へ退散。妹はすぐにでも家の外へ出たがっていたが、麻森さんは「まだ父にお線香を上げていない」という思いから、痛みに耐えつつ仏壇に手を合わせ、それから外へ出た。

骨折に後頭部出血、痛みが1ヵ月

 「死んでいたかも」

 その後、接骨院へ出向いたところ、落下の衝撃で尾てい骨を骨折。また、壁に激突した時に頭をぶつけたのか、後頭部から出血していたが、頭蓋骨や脳に異常はなかった。1カ月経(た)たなければ再度の受診が難しいほど痛みで歩くのも辛(つら)かった。

 麻森さんは「当たり所が悪ければ、死んだり障害を負ったりしていたかもしれない」とため息をつく。もし1人で実家を訪れていて、階段から落ちた時に意識を失っていたら、兄はどう対応していたのか。救急車を呼んでいたのか、そのまま放置されたのか、その答えは分からない。思い返すだけで恐怖が頭をよぎった。

 兄について、麻森さんは「根は優しい人だったが、自分の世界を押し付けてくるタイプ」と話す。実家に足を運んだ時、統一教会問題を取り上げた週刊誌や書籍、記事のコピーなどが、父親の仏壇近くに所狭しと置かれていた。

 身内ということもあり、階段から突き落とされて負傷したことに被害届を出すかどうかは未定だ。しかし、麻森さんは「信仰に反対だからと言って、階段から突き落としていい理由にはならない」と繰り返し訴えた。

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