トップ社会【寄稿】ノンフィクション作家・福田ますみ氏(下)「家庭連合」東京高裁決定、大家「頑張れ」に涙ぐむ信徒

【寄稿】ノンフィクション作家・福田ますみ氏(下)「家庭連合」東京高裁決定、大家「頑張れ」に涙ぐむ信徒

高裁決定後に荒らされた世界平和統一家庭連合の浜松家庭教会の前庭=3月9日(関係者提供)

 同時刻に地方の教会はどうなっていたか。中部地方のある教会の教会長が語る。

 「私は解散にはならないと思っていました。家庭連合には、幹部以上が関与した刑事事件は全くないし、それどころか、文科省が元信者の陳述書を捏造(ねつぞう)、改ざんしている。それに、三木素子裁判長が、高裁は証拠裁判主義でいくと宣言されたと聞いています。また、昨年12月に行われた田中富広元会長の辞任会見の内容を証拠にしたいと、結審後にわざわざ裁判所が連絡してきた。これは、会見の内容をこちらに有利な証拠にするとばかり思っていました」

 しかし結果は一審に続いてまたも裏切られたわけだ。

 この教会長は実は別の教会で2年牧会者を務め、新しい教会に教会長として赴任したのが、奇(く)しくも3月4日だった。

 「決定が出たのは、実はまだ以前の教会にいた時でした。本当にショックで目の前の光景が色を失ってしまった。後任の牧会者も衝撃を受けていて、会計担当の若い女性は『どうしよう』と女性部長に泣きながら訴えていました。私はその赴任先の教会に車で出発しました。その教会にも清算人は12~13時ぐらいに入っており、私が到着したのは、清算人が職員に対して説明を始める直前でした」

 清算人は2人で態度は紳士的であり、「業務は粛々と進めさせていただきます。会計さんはいますか、帳簿とかそのままで預かります。鍵は置いておいてください。私物は持って出てください。ただパソコンは私物でもいったん置いて行ってください。この施設はもう使えません。車も法人の所有物ですから使えません」。

 この日、職員はすべて、夕方の5~6時ごろまでに私物を全部持って退去しなければならなかった。しかし、職員全員の私物を1日ですべて持ち帰るのは無理だった。

 すると、教会の駐車場の大家さんが「うちのアパートに置いていいから」と申し出てくれた。「あんたたち何も悪いことをしていないのにね。大変だね。頑張りなさいよ」と励ましてくれたという。この言葉に涙ぐむ信徒もいたそうだ。

教会長でも礼拝できず

 実は教会長はこの日、就任礼拝を行う予定だった。急きょ、信徒たちのグループラインを使ってあいさつを行ったそうだ。そして3月5日から数日かけて17カ所を回り、70~80人の信徒に会った。信徒たちはみな、教会長が来てくれたと喜んだ。

 「すごいなと思ったのは、皆さん早くも、『これで終わりではないですよね』と前を向いて進んでいこうとしていることです。もちろん教会に入れないのは寂しいし悲しい。一番困っているのは、祈祷(きとう)室が使えないので徹夜祈祷ができないことです。徹夜祈祷では叫んだり涙を流したりしながら祈るので、教会内の祈祷室以外ではできないのです」

 礼拝については信徒が外でやる分にはいいが、教会職員は解散後、清算法人の職員となったため、外であっても就業時間内に礼拝を行うことはできない。

 「近く清算法人から解雇通知が届くはずです。ただ宗教的には私はまだ教会長のままです」。彼は教会長としてあくまで、信徒たちに寄り添う決意だ。

 解散決定に際して教団関係者が最も懸念していたのは、教団が所有している霊園がどうなるのかということだった。現在、家庭連合の信徒が埋葬されている霊園は全国に8カ所ある。そのうち家庭連合名義になっているのは、尾瀬霊園、中日本霊園、北陸霊園、大阪平和霊園、高知霊園の五つだ。

 信徒のTさんは、尾瀬霊園の園長である。そもそもは、Tさんの祖父が所有していた群馬県片品村の土地を祖父が旧統一教会に献納し、1982年に尾瀬霊園としてオープンした。以来、Tさん一家は親子3代で、この霊園の維持管理、墓参者の対応を行ってきた。

 「霊園の広さはサッカーコート2面分ぐらいですね。420名の方は土葬で墓石のある墓所に埋葬され、約1070名の方たちの火葬されたお骨も納められています。解散が決定した翌日の3月5日に清算人3名が見え、現地の視察を行いました。事前に心配はありましたが、実際は霊園への出入りは自由でお墓参りはできますし、納骨堂の鍵を取り上げられることもなく、チャペルも出入り自由です。ただこの判断は清算人によって異なるようです」

霊園競売は回避か

 清算人は建物の登記簿の閲覧を求めた。解散で固定資産税の税制免除がなくなり、清算人が代わって固定資産税を納めなくてはならないからだ。マイクロバスの鍵は押収されたが、作業用のハイエースや軽トラックは使用できる。納骨や埋葬を行う場合は、3月4日以前に予約が入っているものについては行ってよいとされた。

 しかし、年に1回、会長も参加して大々的に行われる合同慰霊祭などの宗教行事は禁止されてしまった。

 これからどうなるのか。霊園が競売にかけられるといった最悪の事態は回避できそうだが、法律的には、こうした霊園の経営は、地方公共団体や宗教法人、財団・社団法人などが行うため、他の宗教団体への譲渡も今後、視野に入ってくる。ただ、ご遺骨、墓石の所有権は遺族にあるため、遺族会が納得でき、さらに会長の意向に沿う譲渡先でなければならず、その選定は難航しそうだ。(教団の法務部によれば、教団は、解散後の財産帰属先を天地正教に指定しているため、墓地の帰属先も天地正教になるという。だが全国霊感商法対策弁護士連絡会が、残余財産が出ても天地正教に帰属させるべきではないと主張し、特別の立法措置を促しているので、どうなるか分からない)

 現在、教団の職員は1933人。清算法人から解雇された後の彼らの再就職が厳しいことは容易に想像がつく。決定文ではしかし、そんな彼らに対し、雇用保険や生活保護を受けられると触れたのみである。これが罪のない信徒たちにかける言葉だろうか? 血も涙もないとしか言いようがない。

 (堀正一氏は正式には「元会長」だが、信徒の呼称に従い「会長」とした)

【寄稿】ノンフィクション作家・福田ますみ氏(上)

【寄稿】ノンフィクション作家・福田ますみ氏(中)

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