3月16日、沖縄県名護市の辺野古沖で反基地団体が運航する抗議船が転覆し、研修旅行中の高校生らが死亡するという悲惨な事故が起きた。被害者も保護者も抗議船に乗船すると知らなかったにもかかわらず、主要メディアは沈黙している。一方で、安倍晋三元首相の銃撃事件では、山上徹也被告と世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の関係が伝えられ、大騒ぎになった。何が違うのか。
「被害者・安倍元首相と自民が悪いと報道が始まり、1社が1日に数回も報道する状態が2カ月以上続いた」が、「辺野古事件では報道の忖度(そんたく)に甘えて、界隈(かいわい)が沈黙したまま狡猾(こうかつ)に立ち回っている」。著述家の加藤文宏氏はX(旧ツイッター)で、二つの事件における報道姿勢の違いを問題視した。

同月26日、「信者の人権を守る二世の会」と「公正・公平な裁判を求める有識者の会」共催の記者会見に臨んだ加藤氏は、安倍氏を殺害した山上被告を「悲劇の宗教2世」と位置付ける「ナラティブ」(言説)がすぐに出来上がったと指摘した。
報道に触れた人々が教団と政治の「ずぶずぶな関係」に激しい憎悪を掻(か)き立てられた結果が、教団に対する「差別と排除」につながったという。しかし、「実際に社会の空気と感じられていたものは、国民の極めて一部の熱狂が作り上げているものにすぎなかった」と振り返り、「解散命令に至るきっかけを報道が作ったことは『異常』だったと言わざるを得ない」と断罪した。
有識者の会は、国内外の政治、法曹、学術、言論、宗教などの有識者約200人が名を連ね、1000人以上が賛同している。記者会見には、加藤氏のほか、呼びかけ人代表の中山達樹国際弁護士、徳永信一弁護士、金沢大学の仲正昌樹教授、文藝評論家の小川榮太郎氏、ノンフィクション作家の福田ますみ氏が登壇し、解散命令に反対する声明を発表した。
<解散命令は、単なる法執行である以上に、宗教教団の社会的信用に対する根底的な否定です。約十万人の信徒の方々の人生は、アイデンティティの最も核心的な信仰において、その尊厳を否定されることになります。
両裁判所(東京地裁と東京高裁)の決定は、「はじめに解散ありき」という至上命令の上に無理を重ねたものです。もしその延長上に来る最高裁決定がなされた場合、それは法治国家、自由社会の根幹を打ち砕く致命的なトリガーとなりかねない事を、我々は強く危惧(きぐ)します。>
仲正氏は、「法的には踏み込まず教義の評価に中立性を保つのが近代法の大原則」にもかかわらず、「東京高裁が家庭連合の教義について独自の解釈を行い、それによって解散命令を正当化していること」を問題視し、驚きを隠さなかった。
創価学会の板まんだら事件(1981年)でもオウム真理教の地下鉄サリン事件(1995年)でも裁判所が教義に干渉していないことを指摘。「国家が宗教団体の教義を当事者の意見を聞くことなく独自に解釈し、それに基づいて信者らの将来に重大な帰結をもたらす決定を行うのは、前近代のヨーロッパにおける異端審問の発想と同じ」であり、家庭連合の施設閉鎖は、戦前に解散を命じられた大本教の施設破壊を想起すると危惧した。
中山氏は、「冤罪(えんざい)事件で無罪が確定した袴田巌さんはこの苦しみを58年間味わったのだなと思った。家庭連合はそれ以上に苦しめられることになるが、それでいいのだろうか」と訴えた。
記者会見後、本紙の取材に対し、徳永弁護士は苦言を呈した。
「家庭連合に対する解散命令が最高裁で認められた場合、これが判例となり、どんな団体も恣意(しい)的に解散できてしまう。日本が世界から笑いものにされるだろう」
(信教の自由取材班)







