東京高等裁判所が世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対する宗教法人解散命令を維持する決定を行い、家庭連合の清算手続きに入って1カ月を迎える。礼拝や祈りの場を失いながらも「信者間の絆がより強まった」という声もある。教団関係者や信者らの動きを追った。(信教の自由取材班)

桜が開花し始めた3月29日の日曜、関東地方のとある公園で花見客の一団がブルーシートを広げていた。「お久しぶり」。やや高齢の男性、女性が目立つほか小さな子供たちを連れた夫婦や大学生ぐらいの青年ら数十人が、和気あいあいとあいさつをしていた。リーダーらしき40歳ぐらいの男性は「大変な時ですが、今日はゲームやお弁当を食べながら交流しましょう」と呼び掛け、集った人々を元気づけた。
集まっていたのは家庭連合の信者で、2月までは地元の教会施設で日曜礼拝に参加していた。ところが、3月4日の高裁決定により、清算人が全国の家庭連合の宗教法人施設を差し押さえた。
SNS上でも信者たちは、自分たちの教会が失われたこと、その不自由さを嘆く声などを数多く投稿。その一方で、複数の信者家庭が互いの家に集まって礼拝を行ったり、レンタルスペースやカラオケルームを借りて集会を開いたことを報告するポストもしていた。
卒業・入学シーズンと重なったこともあり、子供たちを祝う教団のイベントも各地で開かれた。子供が卒業イベントに参加した、首都圏に住む30代の女性信者は「子供も春から小学生なのでうれしそうだった。心機一転して頑張りたい」と話す。
教会施設の差し押さえの中には、東京高裁の決定が報じられて1時間も経(た)たないうちに清算人が訪れた所もあった。
「信者みんなで集まったり、一緒にご飯を食べるという当たり前のことが、突然できなくなることに大きなショックを受けた」
そう話すのは400人以上の信者が在籍していた新宿家庭教会(東京・高田馬場)で、「大教会長」という役職を務めていた岡光君啓さん(46)だ。
3月4日当日は、同教会の礼拝堂で東京高裁前の中継を信者約20人と一緒に見守っていた。午前11時を過ぎて「教団解散」という結果が報じられると「息をのむような雰囲気に包まれ、礼拝堂に集まった人たちはしばらく誰も動けず、声も出せなかった」と岡光さんは振り返る。その時、スタッフの1人から「清算人の代理人が15人から20人ほど来ていて、既に部屋の中に通している」と告げられ、驚愕(きょうがく)した。
代理人の弁護士は岡光さんらに「通帳や金庫のお金一式を全部、帳簿やデータと照らし合わせながら引き継ぐ」と説明。さらに教会施設への立ち入りを禁じることが伝えられたが、一つ問題があった。翌日と翌々日に、同教会で信者の葬儀を行う予定になっていたのだ。
岡光さんは代理人と交渉し、冠婚葬祭ゆえの「特例」として、予定通り執り行うことが許可されたが、制約も多かった。「職員としては宗教行事は禁じられているので、信者個人としての参加をお願いしたいと言われた」という。
ある信者は葬儀の間は教会への出入りができるかもしれないと考え、「祈祷(きとう)室で祈りを捧(ささ)げたい」と申し出たが断られた。5月に韓国で合同祝福結婚式が行われる予定であるため、渡韓できないカップルのために中継会場として教会施設を使用できないか交渉していたが、これも許可が下りなかったという。
現在、清算人からは自宅待機が命じられているものの、それ以外の指示はほぼない状態だ。「個人としての宗教活動は禁じられていない」(岡光さん)ため、日曜日に信者たちがインターネットで視聴するための説教を、信者宅を借りて撮影するなどして急場をしのいでいる。
教会施設での宗教活動の許可が下りにくい状況について、岡光さんは「清算人のみの判断であれば、ここまで否定されるのは考えにくい。世間の目を気にして、教会施設に人が集まることを極力避けようとしているのではないか」と推測を述べた。
1992年に結婚してから現在に至るまで、同教会に所属している信仰歴40年以上の女性信者・新山京子さん(66、仮名)は「心を痛めた信者同士の心の結束は、逆に強まっている」と強調する。
新山さんは3月20日、信者の企画したバーベキュー大会に参加。会場となった都内の公園には約180人の信者が集まった。解散の確定後に初めて顔を合わせた信者仲間も多く、新山さんは強い安心感を覚えた。
「感動のあまり思わずハグし合った人もいた。建物はなくしたけれども、私たちの信仰の土台はここにあったと気付かされた」と、新山さんは笑みを浮かべた。







