
静岡県焼津市は12日、津波対策として2016年から整備を進めてきた防潮堤「潮風グリーンウォーク」の完成式典を行った。約5・1㌔の長さで、既存のコンクリートの海岸堤防を厚く補強。津波の勢いを弱めるため堤防の背後に土を盛り立て、植樹も行われている。一見すると海の景観を眺めながら、ジョギングやウオーキングを楽しめる遊歩道のようだ。
同市では南海トラフ巨大地震が起きた際、最悪2分で津波が到達すると予測されている。津波から市民の命を守る戦略として、防潮堤は津波到達時間を遅らせ避難時間を確保すること、浸水面積を減少させて被害を軽減することに重点が置かれている。
静岡県沖の駿河湾から宮崎県沖の日向灘までの約700㌔にわたる被害が予想されている南海トラフ巨大地震は、約90~150年の間隔で繰り返し発生してきた。直近の昭和南海地震(1946年、M8・0)から、今年でちょうど80年を迎える。
政府が昨年公表した新たな被害想定では、津波だけで最悪21万人を超える死者が発生。さらに被害を大きくする特徴として、①極めて広域で強い揺れと巨大津波が発生②静岡県など津波の到達時間が極めて短い地域がある③時間差を置いて複数の巨大地震が発生する可能性④甚大な被害による物資や人員などのリソース不足―などを挙げて懸念する。
ただし、津波への対応が早ければ、約9万4000人にまで死者数を減少できる可能性があり、津波からの早期避難が大きな鍵だ。政府は今後10年の減災目標として、防災意識の醸成やインフラの強化などにより、想定死者数を約8割減らすことを掲げる。焼津市の「潮風グリーンウォーク」もそのためのハード整備の一つだ。
一方で県民は南海トラフ巨大地震をどのように受け止めているのか。
静岡市に住む桑原英行さん(65)は「まだ20代の頃から『これから30年の間に大地震が発生する確率はかなり高い』と言われ続けてきた」と話す。東日本大震災で津波の映像を見た際は「決して他人事(ひとごと)ではないという危機意識が強かった」と強調。家族が3日間暮らせるだけの非常食や備品の確保にも取り組んでいる。
ただ、同市で定期的に行われる防災訓練には「参加する人、しない人もいる。自治体によって浸透度合いは異なるようだ」と話す。海岸に近い地域には、津波対策として鉄骨や鉄筋コンクリート作りの避難用の建物が複数設置されているものの「実際にどの程度の効果があるのか」と述べ、不安を隠さない。また、行政に対して「危機意識を啓蒙(けいもう)し、もっと本気度を高めてほしい」という思いを抱く。
焼津市在住の70代男性、名越敬三さん(仮名)も職場が海に近いため、「津波に流されないよう、浮き輪代わりに4㍑入りの空のペットボトルを用意している」と語る。
だが、以前と比べて防災意識の低下を感じる時もあるという。「消火活動や担架の作り方を地域でやっていた時期もあったが、最近では近所付き合いも少なくなり、それに伴って訓練自体も形骸化してきた。直近で行われた防災訓練では、ただ家族の安否状況を紙に書き、組長に渡して終わりというものだった。今、災害が来たらまずいのではないか」と訴えた。
災害の発生は避けられず、ハード面の整備にも時間が必要だ。しかし、人間の意識なら、すぐに変えることができる。過去の多くの教訓がいつか誰かの心を変え、未来の命を救うヒントになるよう、これからも語り継いでいかなければならない。
(東日本大震災15年取材班)=終わり=







