トップ社会【連載】未来を守る命の教訓 東日本大震災から15年(4)岩手県釜石市 防災教育で救われた追体験

【連載】未来を守る命の教訓 東日本大震災から15年(4)岩手県釜石市 防災教育で救われた追体験

旧釜石東中学校と旧鵜住居小学校の跡地に立つ「いのちをつなぐ未来館」の川崎杏樹さん。避難路追体験はこの地点からのスタートとなる=2月 24 日午前、岩手県釜石市(石井孝秀撮影)
旧釜石東中学校と旧鵜住居小学校の跡地に立つ「いのちをつなぐ未来館」の川崎杏樹さん。避難路追体験はこの地点からのスタートとなる=2月 24 日午前、岩手県釜石市(石井孝秀撮影)

 「当時、私は中学2年生。揺れが始まったのはちょうど部活の時間で、友人たちと準備体操をしていました」

 災害伝承と防災教育を目的とした「いのちをつなぐ未来館」(岩手県釜石市)で語り部をしている川崎杏樹さんは、東日本大震災が起きた2011年3月11日をそう振り返る。

 地震発生後、同市の釜石東中学校の生徒と鵜住居(うのすまい)小学校の児童、そして各校の教職員を合わせて600人以上が高台を目指し、津波被害から難を逃れた。

 メディアは「釜石の奇跡」と称賛したが、現在釜石市では「奇跡」という言葉を避け、「釜石の出来事」と表現している。市内全体で見ると、亡くなった児童生徒がいるということもある。さらに、子供たちの多くが無事だったのは単なる偶然でなく、各学校で積み重ねてきた防災学習の賜物(たまもの)という実感があるからだ。

 具体的には地域の人々と一緒にハザードマップを作ったり、避難訓練を小中学校合同で実施。避難訓練では、けが人がいるという想定で負傷者を交代で背負うという訓練も行っていた。川崎さんも小中学校で防災学習を継続していたからこそ、防災意識や知識が定着したと実感する一人だ。「防災学習があったから、今もこうして生きていられる。先生方には本当に感謝しかない」と語る。

 現在、同未来館では被災した子供たちが避難したルート約1600㍍を歩いてたどる「避難路追体験」のプログラムが実施されている。実際にその道を通って避難した川崎さん本人が、避難時の回想を交えて案内してくれた。

 当時、地震の揺れが落ち着くと、川崎さんを含めた同中学校の生徒たちは校庭に集まり、整列と点呼を始めた。この時点で教職員たちの指示はなく、停電で全校放送もできない状況だったが、生徒たちは普段から実施していた避難訓練により、自主的に行動できた。その後、駆け付けた教師たちの指示を受けて避難が始まったが、驚くべきことに避難開始まで地震発生から5分も経(た)っていなかったという。地震発生から10分後、学校から約800㍍離れた福祉施設に到着。同小学校の児童たちとも合流した。

 だが、施設駐車場の裏山で崖崩れが起きていたことが、近隣住民からの報告で明らかになった。そして、教職員たちに「こんなことは今まで見たことがない。子供たちもここにいたら、死んでしまうんじゃないか」と住民が進言し、高台への移動が決まった。中学生たちは小学生の手を引き、再び避難を始めた。

 結果的に最初の避難場所となった福祉施設は1階が浸水。移動の再開は児童生徒たち全員の命を左右する判断だったことが後に判明した。川崎さんは「もしかしたら留(とど)まっていたままだったかもしれない。どういう選択になってもおかしくなかった」と話す。

 さらに約300㍍先のデイサービス施設まで実際に歩いてみると、道の傾斜が上がり、同施設からある程度町の様子を一望することができた。この場所には生徒や児童らのほか、近隣の住民や保育園の園児たちらも集まり、人数は1000人近くになっていた。

 「急に大きな音がして振り返ると、町が津波にのみ込まれていくのを目撃した。その時の津波は真っ黒で、液体というよりまるで黒い壁だった。海の潮の香りに下水道が混じったようなにおいがした」と川崎さん。津波は同施設までは到達しなかったが、恐怖に駆られた川崎さんたち避難者は、さらに高い位置に向かって坂道を駆け上がった。坂の上まで移動後、ようやく「津波からは助かった」との思いが広がった。

 避難路からの帰路、川崎さんは最後に「今はどこで災害が起きてもおかしくない状況だ。災害は必ず起きるという『自分事』として考えておくと、意識や行動はだいぶ変わってくるはずだ」と語った。

(東日本大震災15年取材班)

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