トップ社会【連載】家庭連合解散命令 地裁決定を検証する(5)「本件問題状況」に合理性なし

【連載】家庭連合解散命令 地裁決定を検証する(5)「本件問題状況」に合理性なし

 東京地裁(以下、地裁)は、世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の2009年のコンプライアンス宣言(以下、コンプラ宣言)以前の「訴訟上の和解」の原告や「裁判外の示談」の申告者について、「合理的な推測として、…本件判断基準の下でも(教団の)信者による献金勧誘等行為につき不法行為が成立すると認めることができる」と主張するが、その推認を支えるもう一つの仕掛けが「本件問題状況」(教団の不法行為を誘発させる問題状況)だ。

 地裁がこの推認を「合理的」とする理由は、①和解・示談成立者の大部分は、本件問題状況が現実化した際に献金勧誘等行為に見られるのと同様の事実関係を、具体的に指摘して…被害を訴えている②和解の約6割、示談の約4分の3の者が、100万円以上の見舞金の水準にとどまらない支払合意をしている―との2点だ。

 これらの和解・示談は、不法行為の有無を抜きにした合意であるため、とても②の説明が「合理的」とは言えない。とすれば、①が核心的な理由となるが、これはあくまでも「本件問題状況」を前提とした説明だ。それでは本件問題状況とはいったい何なのか。

 これは、教団・信者による献金勧誘等行為の不法行為が認められたコンプラ宣言以前の31件民事判決(原告168人)とその裁判資料から抽出された献金勧誘等行為の類型的傾向(特徴および背景事情)を基に推認した概念(図参照)だ。すなわち地裁の「合理的な推測として、…不法行為が成立する」との認定は、実は2段階の推認を経たものなのだ。だが、その二つの推認には合理性がない。

 「本件問題状況」とは、31件民事判決の原告(168人)の大部分が主張する教団信者の献金勧誘等行為の類型的傾向から、「全国的に、教団の信者が、教理を伝導する過程で」その類型的傾向を生み出すおそれがある状況を生んでいたと推認したものだ。

 つまり地裁は、原告168人の大部分の主張を裁判所が認めたことをもって、全国的に教団の信者がそれと同様の法令違反(不法行為)を誘発するような行為を行っていた、つまり“虞犯(ぐはん)団体”であると決め付けているのだ。

 たとえこの推認を認めて、教団が「相当に根深い」(決定文88㌻)“虞犯団体”だったとしても、和解・示談成立者の大部分が「本件問題状況が現実化した際に献金勧誘等行為に見られるのと同様の事実関係を、具体的に指摘して…被害を訴えている」だけで、和解・示談の原告・申告者に信者が不法行為を行ったとの推論は成り立たない。

 地裁の主張は、上記原告・申告者の大部分が、31件民事判決の原告と類似した内容を訴えているという意味しか持たず、それは訴訟や和解、示談の大部分(弁護士を選任した申告者の9割以上)を教団解散を目標に活動してきた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の弁護士が担当していることで十分説明がつく。また、その訴えの事実関係を確認もしないで教団信者の不法行為を推認する権利は地裁にはない。

「類型的傾向」に全国弁連の影

 「本件問題状況」の推認にも合理性がない。極めて特殊で偏った抽出標本の類型的傾向から、当時、全国で何万人にもなる教団の信者(母集団)が本件問題状況を生じさせていたと推認することは、統計学的にもあり得ないことだ。

 地裁は、推認の裏付けとして、献金勧誘等行為のマニュアルや数値目標・ノルマ記載文書について、「文言及び記載内容に、時期や場所を問わず、同一性・類似性がある」「原告以外の相当数の信者においても利用・参照することが見込まれる」「類型的傾向と…合致する内容の記載がみられる」などを挙げている。

 しかし、当該マニュアルの作成者は教団や同幹部役職者などではなく、すべて会社などの別団体であり、しかも使用時期は全てコンプラ宣言前だ。販売促進などのために使われたもので、教団の公式文書との認定はなく、教団の信者全体の行動に影響を与えるものとは言えない。

 原告の中には、脱会屋の教唆・幇助(ほうじょ)を受けた拉致監禁によって強制脱会させられ、脱会意思確認のために全国弁連の弁護士のアドバイスを受けて教団を提訴した元信者も少なからずいる。彼らは、信仰生活で最も重要な回心(神に立ち返る個人的な信仰体験)後の喜びや感謝による献金については口をつむり、「先祖等の因縁による深刻な事態を免れるためには献金…等をしなければならないと告げられ、…繰り返し、献金…等をしていた」などと訴える。そうでなければ監禁から解放されないからだ。

 このような拉致監禁被害者の元信者と他の原告の主張に「類型的傾向」があること自体が深刻な問題だ。訴訟を担当した全国弁連の弁護士の影響を指摘せざるを得ない。

 「本件問題状況」が正しいとすると、数年~数十年にわたる信者の献金は「種々の深刻な問題と因縁等を結びつけた、教育・指導及び献金等の勧誘の反復継続」(1面図・本件問題状況②の補足説明)によるものになる。これは宗教や信仰に対する無知を自白するようなものだ。自発性も喜びもない信仰が数年~何十年も続くということはあり得ないからだ。

(信教の自由取材班)

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