トップ社会【連載】家庭連合解散命令地裁決定を検証する (4)曖昧な「不法行為」判断基準

【連載】家庭連合解散命令地裁決定を検証する (4)曖昧な「不法行為」判断基準

法人寄付不当勧誘防止法案修正を巡り幹事長会談に臨む当時の与野党幹事長ら=2022年12月5日、国会内

 東京地方裁判所(以下、地裁)は決定文で、世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の2009年のコンプライアンス宣言(以下、コンプラ宣言)以前に成立し、合意内容が履行された訴訟上の和解や裁判外の示談(以下、和解や示談)と関連し、その原告や申告者の主張を根拠に、教団・信者の献金勧誘等行為について「不法行為が成立する」と推認した。こうした推認による判断を、地裁はどのように下したのか。

 まず、地裁は「不法行為が成立する」との判断を「本件判断基準の下で」下している。すなわち、ここでいう「不法行為」は刑法や民法など実定法の違反を意味するものではない。解散要件を定めた宗教法人法81条1項1号の「法令に違反」する行為かどうかを判断するために地裁が定めた基準に基づくものだ。

 それはどんな基準なのか。いろいろな説明がなされているが、決定文65ページにある説明が分かりやすい。

 「寄附者が献金をするか否かについて適切な判断をすることに支障が生ずるなどした事情の有無やその程度、献金により寄附者又はその配偶者等の生活の維持に支障が生ずるなどした事情の有無やその程度、その他…諸事情を総合的に考慮した結果、勧誘の在り方として社会通念上相当な範囲を逸脱すると認められる場合には、不法行為法上違法と評価される」

 これは、どこかで見たことがある内容だ。安倍晋三元首相暗殺後に吹き荒れた教団批判報道の嵐の中で、2022年秋の臨時国会で制定が進められた「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」がそれである。

 同法の第3条は、法人等が寄附の勧誘を行う際に配慮すべき以下の三つの義務を明記しているが、これをほぼ踏襲する内容になっているのだ。

 ①寄附者の自由な意思を抑圧し、適切な判断が難しい状況に陥ることがないようにする②寄附者やその配偶者・親族の生活の維持を困難にしないようにする③勧誘する法人等を明らかにし、寄附される財産の使途を誤認させるおそれがないようにする。

 地裁はここでも③のいわゆる「未証し勧誘」の内容は詳述せず、こっそり隠している。それ以上に問題なのは、同法を明示して適用すると法の不遡及(そきゅう)の原則を破ることになる点だ。それで、地裁は法律名や具体的な条文を明示せず、同法を念頭において「社会通念上相当な範囲」を逸脱するかどうかを強調する「本件判断基準」という曖昧な概念にとどめておいたのだろう。曖昧な判断基準はまた、地裁の判断の幅を広げ、批判に晒(さら)されにくくする効果もあり、一石二鳥といえる。

 同法は家庭連合を標的にして制定されたという側面はあるが、法律の専門家も加わって制定されたので、普遍的な内容を含んでいる。従って、32件の民事判決で認められた教団・信者の不法行為が「本件判断基準」に照らしても不法行為であると評価することは可能だ。

 しかし、コンプラ宣言前の和解や示談における教団・信者の献金勧誘等行為にまで、「本件判断基準」を適用することはできない。なぜなら、和解や示談では、法令違反に当たるかどうかを判定できるような具体的な行為事実は確定されておらず、原告や申告者の一方的な訴えが、訴状や通知書に記されているだけであるためだ。

 民事訴訟は刑事訴訟ほど厳格ではないが、損害賠償を行う原告(被害者)側に(加害者側の)不法行為の立証責任があり、不法行為の要件のうち一つでも立証できなければ、請求は棄却される。和解・示談の原告や申告者の一方的な主張だけで、訴えられた側の不法行為を認めるのであれば、裁判所はいらないとさえ言える。(信教の自由取材班)

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