トップ国内沖縄「極端気象」の予測精度向上へ 沖縄県・恩納村のOIST、NTTなど 台風メカニズム探り共同研究

「極端気象」の予測精度向上へ 沖縄県・恩納村のOIST、NTTなど 台風メカニズム探り共同研究

 過去にカテゴリ5台風の観測実績も

握手を交わすOISTのカリン・マルキデス学長(左)とNTTの川添雄彦副社長=3日、OIST提供

沖縄県・恩納村の沖縄科学技術大学院大学(OIST)はこのほど、台風や線状降水帯など「極端気象」の発生メカニズムの解明と予測精度の向上を目指し、日本電信電話(NTT)と気象庁気象研究所(茨城県)との共同研究に着手した。衛星などでは把握が難しい「海岸直下」の気象・海洋データをリアルタイムで取得する観測体制の構築を目的としており、沖縄周辺海域を中心に、観測機材の設置と運用を本格化させる。(沖縄支局・川瀬裕也)

近年、極端化する台風や大雨などがもたらす甚大な被害が大きな社会問題となっている。これらの課題を解決するため、現状の気象衛星のみでは捉えることが難しいとされる海洋表層における観測データを収集し、線状降水帯や台風の発生メカニズムを解明することが共同研究の目的だ。

研究は2025年から段階的に進められる。まずは自律航行可能な海上観測機や観測ブイを駆使し、海面上・海中の気温、温度、気圧、波高などの基礎観測データを収集する。27年以降は観測対象を洋上大気にまで拡張する予定。将来的には衛星IoTや高高度プラットフォーム(HAPS)などを活用した地球規模の観測ネットワーク構築も視野に入れている。

これに先立ちOISTとNTTは、21年から共同研究を開始。22年からは沖縄近海で海上気象観測の実証実験を実施しており、中でも注目されたのが、北大西洋での上陸前のカテゴリ5の猛烈な「台風11号(ヒンナムノー)」直下での観測だ。

当時、北大西洋上において、OISTとNTTがそれぞれ開発した「ウェーブ・グライダー」と呼ばれる海上無人観測機を投入。台風の通過直下における大気と海洋の同時データ取得に世界で初めて成功した。観測では気圧の急激な低下や海水温の上昇・低下、最大9メートルに達する高波など、台風進行に伴う劇的な変化が記録され、気象予測の向上に貢献した。

研究のスケジュール(上)と取り組みイメージ=OIST提供

今回の共同研究では、これらの実績をもとに、台風の「生きたデータ」を多面的に捉え、線状降水帯の形成過程や地上被害との関連性にまで踏み込んだ調査をする狙いだ。

3日に開かれた記者会見でOISTのカリン・マルキデス学長は、「沖縄は極端気象の影響を最も受けやすい地域の一つであり、研究にとって理想的な場所だ」と沖縄で研究を行う意義を語り、「研究成果は沖縄のみならず世界に貢献する」と述べた。

またNTTの川添雄彦副社長は「線状降水帯や台風の発生・発達過程の解明は社会的課題であり、今回は気象研究所と一緒に、より正確でより社会に役立つような予測をもたらすことで成功に導きたい」と意気込みを語った。

OISTは、11年に設立された理系に特化した大学院大学。英語を共通言語とし、約50カ国以上の研究者が在籍する国際色豊かな研究機関だ。文部科学省が「世界最高水準の科学技術研究機関」として位置付けており、学内には生命科学、ロボティクス、神経科学、量子物理、海洋科学など、多様な分野にわたる最先端の研究設備が整っている。

過去には、神経科学で脳内ネットワークを可視化する革新的技術を確立し、アルツハイマー病や自閉症のメカニズム解明につながる成果として評価を受けた。また、サンゴ礁の再生・保全に関する研究では、気候変動に強いサンゴ種の選別や育成でも成果を挙げた。22年には、養殖が難しいとされてきたツツイカの飼育システムの開発に世界で初めて成功した実績もあり、海洋分野に強い研究機関としても知られる。

今回の共同研究は、これらの基盤の上に構築されたもので、台風予測という人名と社会基盤に直結する分野においても、OISTの知見と技術力が試されている。

NTT、OIST、気象庁の産学官が連携し、自然の猛威を解明することに国内外から大きな期待が寄せられている。

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »