トップ社会衣服から感じる伝統文化 北海道博物館蔵出し展「アイヌの衣服」

衣服から感じる伝統文化 北海道博物館蔵出し展「アイヌの衣服」

選りすぐりの資料30点紹介

幕末から明治、近年製作の品も

樹皮衣から木綿衣まで並んだアイヌの衣服

先住民族とされるアイヌの人々の衣服を集めた蔵出し展「アイヌの衣服」が今、北海道博物館で開かれている。明治時代以後、政府の同化政策によって日本人社会に取り込まれていったアイヌの人々だが、古くから民族に伝わる伝統文化は今なお保存・継承されている。今回の展示会では同博物館が所蔵する200点の衣服の中から、貴重な資料30点が紹介されている。(札幌支局・湯朝肇)

「当博物館には、約6500点におよぶアイヌ民具資料が所蔵されていますが、その中で衣服に関するものは200点近くに上ります。これは国内の他の博物館に比べてもかなり多く所蔵しているといえます。ただ、総合展示室で展示するとなれば、“資料保存”の観点から極めて数が限られてしまうのが実情。今回は蔵出し展としてある程度まとまった数のアイヌの衣服をテーマごとに展示しました」――こう語るのは、北海道博物館の学芸員の亀丸由紀子さん。今回展示されているアイヌの衣服について亀丸さんは「所蔵している衣服のほとんどは北海道博物館の前身である北海道開拓記念館の時代に収集されたもので、寄贈されたもの、開拓記念館が購入したもの、博物館資料として製作したものです。正確な年代が分かるものは多くありませんが、幕末から明治の初め、さらに大正を経て近年に新しく製作されたものを展示しています」と話す。

一方、蔵出し展の内容構成は三つのテーマからなっている。一つ目は「樹皮や草などを利用して作った靭皮衣(じんぴい)」、二つ目は「木綿を題材にして作った木綿衣」。さらに三つ目のテーマとして現在、総合展示室にあるアイヌの衣服の展示コーナーの紹介に加えて、日々の資料整理や衣服の定期入れ替え作業など資料保存に関連する事柄を取り上げている。また館内の所蔵されている150点余りのアイヌの衣服を写真に撮り、見学者にお気に入りの衣服を選んでもらう「アイヌの衣服総選挙」も実施している。

アイヌの衣服の一つである木綿衣について説明する亀丸由紀子学芸員

元来、アイヌの衣服には、獣の皮を使った獣皮衣、魚の皮を素材にした魚皮衣、樹木の皮や草を利用した靭皮衣、鳥の羽で作った鳥羽衣、木綿を素材にした木綿衣などがあるが、今回の展示では靭皮衣と木綿衣が展示されている。ちなみに、靭皮衣はオヒョウ(ニレ科の落葉樹)やシナノキの内皮から繊維を作り反物に織って衣服とした樹皮衣とイラクサなどの草の内皮を繊維にして反物にし、それで作った草皮衣に分けられる。

「ひと口にアイヌの衣服といっても、作り方や呼び方は地域ごとに違いますし、年代によっても異なってきます。普段着なのか儀式で着る服なのかによっても異なってきます。また居住地域も北はサハリンから道内各地に及びますし、それぞれの衣服には独特のアイヌ文様が施されており、そのデザイン性を探ってみるのも興味深いものがあると思います」と亀丸さんは語る。

確かに、木綿衣の中には象の絵柄が入った布を切り伏せにして縫い付けているものがあるなど、和人との交易で手に入れた布などを使って作った衣服があるなど、よく見ると製作者の意図を垣間見ることができるようで面白い。

現在、アイヌの人々の衣生活の中心は洋服や和服で、普段の生活の中でアイヌの伝統衣装を身に着けることはほとんどないものの、儀式や祭りのときは伝統衣装を身に付けて祭祀(さいし)や歌踊りを披露する。また、近年、さまざまな分野でアイヌ文化への関心の高まりから、アイヌ語学習や衣服の作り方、刺しゅうの講習会などが頻繁に行われているのも事実。

「当館が所蔵する豊富な実物のアイヌの衣服を身近に見ることで、アイヌ文化の一端を知ってほしい」と語る亀丸さん。蔵出し展「アイヌの衣服」は6月15日まで開催(毎週月曜日は休館)されている。

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