世界日報 Web版

米の譲歩で中東不安定化 米安全保障政策センター上級研究員 フレッド・フライツ氏(下)


2014世界はどう動く
識者に聞く(6)

イラン核問題

400 ――オバマ政権の下で米国の国際的影響力が低下している。

 オバマ大統領にとって外交問題は優先課題ではなく、ナイーブで経験不足のアドバイザーたちがオバマ氏を取り巻いている。

 彼らは「反ブッシュ」、つまり、ブッシュ前大統領とは反対のことをすればいいと考えた。そして、絶大な人気を誇るオバマ氏の影響力があれば、北朝鮮やイランなどならず者国家はテロ行為や核開発をやめると考えた。だが、北朝鮮やイランが米国を憎むのは、大統領がブッシュ氏だからではない。米国の体制や思想が憎いのだ。

 オバマ氏は善良な人物であり、世界平和を望んでいるのは間違いない。

 だが、側近にはユートピアンではなく、リアリストを据えなければならない。「住みたい世界」ではなく、「今住んでいる世界」と向き合わなければならないからだ。

 ――イラン核開発問題をめぐるオバマ政権の対応に、イスラエルとサウジアラビアが強く反発している。

 サウジは昨年10月、国連安全保障理事会の非常任理事国に選出されたが、これを辞退するという驚くべき決断をした。これはエジプトやシリア、イランなど米国の中東政策に対する不満の表れだ。

 サウジとイスラエルは、昨年11月のイランと欧米など6カ国による合意が、イランにウラン濃縮能力や製造済みの濃縮ウランを放棄させるものではなく、事実上、核兵器製造能力を保持させる内容であることを深刻に憂慮している。

 これにより、サウジは独自の核抑止力獲得に動く可能性がある。真偽は分からないが、パキスタンから核兵器を購入しようとしているとの報道もある。また、サウジとイスラエルはイラン攻撃について協議を開始したとの報道もある。これらの動きは全て、中東の安定にマイナスだ。

 米国から離反したサウジはどこに接近するか。一つの可能性は中国だ。中国も石油を必要としている。実際にサウジが中国と同盟関係を築くとは思えないが、中東の緊密な友好国が安保理入りを辞退するほど激怒しているのは由々しき事態だ。オバマ政権はなぜ、イスラエルとサウジが猛反対する中でイランと合意したのか、理解できない。

 ――北朝鮮核開発問題に与える影響は。

 米国は長い間、イランのウラン濃縮活動は一切認めないという断固とした立場を維持してきた。だが、オバマ政権は2012年春、イランに原子炉用のウラン濃縮を認めることを示唆した。これは従来の立場からの大転換だった。原子炉級から兵器級へのウラン濃縮は難しいものではない。

 イランが核兵器保有を目指していることは明白であるにもかかわらず、オバマ政権はウラン濃縮活動を容認すると世界に宣言してしまったのだ。北朝鮮はこの事実をどう解釈するだろうか。オバマ政権が国連安保理決議にも盛り込まれてきた立場から譲歩してしまったことは、世界中で連鎖反応を引き起こすと思う。

 ――オバマ政権はアジアへのピボット(基軸移動)を進めているが、中国は東シナ海や南シナ海などで対立的行動を強める一方だ。

 世界で起きる出来事は全て結び付いている。エジプト、シリア、イランと、米国は中東で深刻な失敗を繰り返し、影響力を低下させている。ロシアに対しても極めて弱腰だ。中国はこれを見ている。米国がアジアへのピボットを進めると言っても、他地域での米国の行動を見れば、中国に毅然(きぜん)と立ち向かってくるとは考えないだろう。

 また、オバマ氏は米軍の兵力や国防支出を縮小し、これを国内予算に回すことを優先課題の一つに位置付けている。これにより、アジアへの兵力増強が難しくなっている。また、オバマ政権の景気刺激策などで財政赤字は増大し、ピボットに必要な措置を取る政府の能力が制限されている。

(聞き手=ワシントン・早川俊行)