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張氏の自信過剰が仇に 韓国治安政策研究所上級研究官 柳東烈氏(上)


2014世界はどう動く
識者に聞く(10)

北ナンバー2粛清

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ユ・ドンヨル 1958年生まれ。韓国中央大学大学院卒。国家情報学会監事、自由民主研究学会名誉会長。北朝鮮の対南工作分析で定評がある。

 ――昨年12月、北朝鮮ナンバー2の張成沢・朝鮮労働党行政部長が粛清された。いろいろ指摘されているが、理由は何だったと見るか。

 最高指導者の金正恩第1書記は、金正日総書記が約30年間にわたり後継の準備をしたのとは異なり、わずか数年の後継準備だったため、金総書記は2010年9月の党代表者会議で、その保護網となってくれるように義理の叔父の張成沢氏とその妻の金敬姫氏に対し、金第1書記と一緒に大将の称号を与えた。

 しかし金総書記死後2年経過し、金第1書記は張氏がいなくても自分1人で統治が可能だという自信を持つようになった一方で、張氏を除去しなければ自分の権力固めはできないという不安も持つようになったのではないか。

 また、張氏は経済の実権を握り過ぎた。北朝鮮には内閣が管理する「人民経済」、金父子の秘密資金である「首領経済」、軍需のための「第2経済」、そして庶民が実際に頼りにしているチャンマダンと呼ばれる「闇経済」の四つがあるが、このうち独裁政権統治のカギを握る首領経済を張氏が牛耳っていた。

 金総書記時代に秘密資金を管理していた李秀勇(別名・李徹)氏は金第1書記の留学時にスイス大使をしながら金第1書記の面倒も見ていたが、金総書記死去で帰国し、張氏が部長を務める行政部の副部長になった。行政部が秘密資金を管理するようになり、新たに外貨稼ぎも担当した。金第1書記としては自分の指示が経済権を握っている張氏の裁量に阻まれることが重なり、不信感を募らせていったとみられる。

 そして、北朝鮮のような独裁国家では絶対認められないナンバー2という“文化”が出来上がってしまったのも原因の一つだ。張氏は自分が金第1書記に代わってトップの座に上り詰めようという野心までは抱かなかっただろうが、金第1書記を過小評価したのは間違いない。

 ――義理の叔父であり後見人だった張氏をなぜあのように無残に処刑できたのか。

 恐らく張氏の権力に対する自信過剰が仇となったのだろう。北朝鮮の高位幹部たちは金総書記死後、金第1書記が怖くてではなく、張氏が怖くて忠誠を誓っていたようなものだった。金総書記時代のように細心の注意を払い、金第1書記の行動を逐一監視、報告させていたらあのようにやられることはなかったかもしれない。逮捕された瞬間、張氏は「自分が先に金第1書記を討つべきだったのに」と思ったかもしれない。

 ――張氏粛清は金第1書記の直接の指示だったということか。

 そうだろう。誰一人として張氏粛清を金第1書記に建議できる人などいないはずだ。金第1書記が張氏に対する不信感を抱く様子を見て、それに同調し始めたということだろう。

 ――同調した主導勢力は。

 まず党組織指導部で中央党を担当する趙延俊・第1副部長が張氏の“容疑”に関する資料を金第1書記に報告し、実際の“作戦”実行は書記局で金第1書記の秘書役を務める金昌善部長が行い、軍の保衛総局や保衛司令部、秘密警察の国家安全保衛部が動員された。昨年の夏くらいから準備していたのではないか。

 張氏粛清は金第1書記一人によるシナリオでは不可能だ。あらゆる組織に自分の人脈を持つ張氏を粛清することは、同時に何万人にも及ぶ張氏一派をどう“処理”するかという問題でもある。組織指導部が中心となって高位幹部に対し個別に脅迫、全国の下部組織には一斉に張氏批判を展開させることなどして絶対忠誠を誓わせている。張氏一派は今も張氏と関係があったという一点でいつ何時粛清されるか分からないという恐怖心を抱いているだろう。

(聞き手=ソウル・上田勇実)