浦添で安全保障セミナー 陸自元西部方面総監 本松敬史氏が講演
抑止力と対処力は表裏一体
現在の沖縄に必要な抑止力について理解を深めることを目的に、県内有志らによって今年7月に発足した「沖縄を戦場にしない抑止力研究会」は2日、緊急政策提言セミナーを浦添市内で開催した。陸上自衛隊の元西部方面総監を務めた本松敬史氏が「沖縄に必要な抑止力とは」と題して基調講演を行い、中国に台湾侵攻の「トリガー」を与えないためにも抑止力の強化が急務だと訴えた。(沖縄支局・川瀬裕也)
県民が声を上げることが抑止力に
仲村覚氏、中国の工作に危機感
中国は近年、覇権拡大の動きを一層強めており、10月には台湾全土を取り囲む海域と空域で、空母や爆撃機、実弾ミサイルなどを使用した大規模な軍事演習を行うなど、台湾海峡を中心に軍事的緊張感が強まっている。
本松氏は冒頭、抑止力の定義について、「相手の有害な行動を思いとどまらせる力」だと説明。「『抑止力』と『対処力』は表裏一体」だとして、迎撃ミサイルの運用などの「拒否的抑止」が日本の対処力に当たると解説した。
本松氏は、中露などの大陸国家と英米などの海洋国家が対峙(たいじ)し、国益がぶつかり合う「リムランド」と呼ばれる地域で、多くの紛争や戦争が繰り広げられてきた歴史を振り返り、日本や台湾、フィリピンなどを含む第1列島線上に当たる「ヒンターランド(後背地)」で「現在、さまざまな問題が起きている」と指摘した。
その上で本松氏は、ウクライナ戦争や、悪化する中東情勢などを例に挙げ、「抑止が破綻すると、武力衝突に発展し悲惨な目に遭う。だからこそ、平和のためにも抑止力が必要だ」と強調した。
悪化する台湾海峡情勢を巡り本松氏は、中国の背後にはロシアと北朝鮮の支援があり、台湾の背後には米国の支援があることを前提に、「米国と同盟関係にある日本は、台湾を間接的に支援せざるを得ない状況にある」と語り、故安倍晋三元首相が述べた「台湾有事は日本有事である」との発言を裏付けた。
本松氏は、習近平国家主席が掲げた「中華民族の偉大な復興」の具体例について、「アヘン戦争以降に失った領土を回復すること」だと分析し、「中国の主張によると台湾や尖閣諸島、沖縄も含まれている」と警鐘を鳴らした。
現在、西太平洋地域における中国人民解放軍の戦力や装備品の数が米国に対して優位な状態にあることから、中国は台湾侵攻の能力を保持していると指摘。その上で、中国による台湾侵攻の可能性について、軍事侵攻の「意志」と「能力」を保持している段階で、きっかけとなる「トリガー」が発生することで有事に発展するとの見方を示した。
本松氏は、「習近平は(侵攻の)タイミングを探っている。彼に『過信』と『誤算』を与えることが、台湾有事のトリガーになり得る」と語り、「付け入る隙を与えないことが最大の抑止力だ。そのためにも防衛力の強化は急務だ」と訴えた。
現在、南西諸島を中心に自衛隊の配備・強化が進められていることに対し、玉城デニー知事をはじめ、一部の市民団体などが懸念を表明している問題については、「自衛隊の駐屯地の存在は抑止力になる」と反論。
「基地や駐屯地があると敵の攻撃目標になる」などとするロジックには論理的根拠がなく、現在の国際社会では通用しないと一蹴し、「むしろ駐屯地で訓練を重ねることが対処力の向上にもつながる」と語り、自衛隊の南西シフトへの理解を求めた。
講演後に行われたパネルディスカッションでは、日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏が、中国・遼寧省の国立大学が沖縄に関する研究を目的として、新たに「琉球研究センター」の設置に向けて動きだしたとの報道を紹介し、「『琉球は日本のものではない』と学術的に証明するための工作が進んでいる」と危機感を募らせた。
非軍事的に見える動きも、中国が軍事侵攻するためのきっかけとして利用される危険性があるとして、「沖縄を戦場にしないためにも、これらの問題を正しく理解し、沖縄県民が声を上げていくことが抑止力向上に繋がる」と訴えた。
セミナーに参加した那覇市在住の男性は「玉城知事は、反米・反基地派の人々だけでなく、抑止力の強化を訴えるわれわれの声にもしっかりと耳を傾けてほしい」と語った。