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患者本人の思い理解する努力を

沖縄県那覇市 天久台病院・平良直人院長が認知症講演会

講演する天久台病院の平良直人院長=9月7日、那覇市のジュンク堂書店那覇店

沖縄県那覇市の地域包括支援センター(本庁地区)はこのほど、世界アルツハイマー月間(9月)に合わせ、啓発勉強会「みんなで認知症を学ぼう」を開催した。認知症専門医で、同市の天久台病院院長を務める平良直人氏が講演し「認知症患者本人の思いを理解することが大切だ」と呼び掛けた。会場ではカードゲームを通して認知症についての理解を深めるコーナーや、パネル展示なども行われた。以下は平良氏の講演要旨。(沖縄支局・川瀬裕也)

公共サービス利用、積極的に

予防につながる社会参加

脳には記憶や季節、時間や場所などを認識する機能が備わっているが、認知症になるとこれらの感覚が失われ、同時に物事を正しく理解・判断し、実行する力も衰えていく。年を取れば健康な人でも脳は萎縮していくが、認知症になると、より縮んでしまう。

認知症にかかると、本人に生じる問題と、支える側にとっての問題という二つの側面が出てくる。

まず、本人は今までできていたことが少しずつできなくなっていく。例えば、おばあちゃんがずっとしゃもじを探してウロウロ動き回ったりする。何度も何度も同じようなことをされると、支える側の娘さんも我慢できず、「いいかげんにしてください」と声を荒らげ、衝突することが増えてしまうかもしれない。また、体も弱ってくると介護の問題も出てくる。

これらの問題に向き合う上で大切なことは、本人の思いを理解しようとする姿勢だ。しゃもじを探していたおばあちゃんが過去に調理師だった場合、大切にしてきた調理器具を探していたのかもしれないし、娘さんのために美味(おい)しいご飯をよそってあげたかっただけかもしれない。この場合、素直に渡してあげれば、本人にも安心感が生まれ、衝突せずに済んだのかもしれない。

会場で行われた認知症啓発のパネル展示=9月7日、那覇市のジュンク堂書店那覇店

認知症にかかると、言葉で適切に意思疎通をすることが難しくなり、本人が発する言葉も、本心から出たものなのか、分かりづらくなるため、病気になる前はどんな人だったのか、こういう時はどんな行動を取る人だろうか、など本人の気持ちを想像し、本人の思いを理解しようとすることが大切になってくる。

またこれらの問題を一人で抱え込まないことも重要だ。家族やご近所さんとの繋(つな)がりを持ち続け、地域の包括支援センターのサービスや家族会などと連携していくことが大切だ。

認知症を予防するためには、運動やバランスの取れた食事はもちろん、豊富な社会参加の機会を持ち続けることが必要だ。趣味や友人たちとの交流を続けていくことが予防に効果的だとされている。

これらが難しくなった場合でも、地域の医療機関や包括支援センターが実施するデイケアやデイサービスに参加してみることを推奨する。最初は断る人も多いが、一度体験してもらうと、新たな友人や社会的な居場所ができることで定着してくれる可能性が高い。これらの活動は日常の生活リズムの維持にも大きな効果がある。

また、万が一に備え、病気になっても自分らしく生きていくために、「もし認知症になってしまったらどうするか」「意思表示ができなくなってしまった場合はどうするか」――などを、事前に家族で話し合って決めておくことも助けになる。

認知症にかかると脳の問題だけではなく、同時に「こころの問題」が生じてくる。気分が落ち込んだり、元気がなくなったり、怒りっぽくなったりする。幻覚が見えるという人も一定数存在する。これらの症状は患者ごとにそれぞれ異なるため、まず本人の病状を正しく理解することが適切な治療やリハビリにつながっていく。

ただ、これらの症状が見られるからといって早々に認知症だと決め付けてしまうのは良くない。過去に、「幻覚が見える」と訴えていた患者さんの目の検査をしたところ、飛蚊(ひぶん)症(視界内に小さな影やモヤが発生する病気)だったことが判明したケースもある。

認知症患者と向き合う上で、進行を遅らせるための薬による治療はもちろん大切だが、精神面での薬によらない“治療”がより重要だ。そのためには、介護を担う家族への支援や万全なサポート体制が必要不可欠となる。

病気に対する正しい知識と、公共サービスなどの情報を身に付けることが、適切な治療への第一歩に繋がる。

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