辺野古移設訴訟 県敗訴から1年
訪米し基地反対訴え
米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡る訴訟で、県の敗訴が確定してから今月で1年が経過した。国が工事を本格化し、玉城デニー知事は移設工事を阻止する手段を失った。こうした中で玉城氏は訪米し、沖縄県内で発生した米兵による性犯罪への懸念を表明するなど、移設工事阻止の新たな足掛かりを模索しているとみられる。
(沖縄支局・川瀬裕也)
米兵の性犯罪を政治利用
被害者への“配慮”自ら無視
辺野古移設工事に伴い、防衛省が申請した設計変更申請を県が不承認とした処分を巡る、いわゆる「辺野古移設訴訟」で、最高裁判所は昨年9月4日、県の上告を退ける判決を言い渡し、県の敗訴が確定した。これにより、辺野古「新基地建設反対」を公約に掲げて当選した玉城氏は、工事を阻止する策を事実上失うこととなる。
その後、玉城氏が期限までに工事の設計変更申請への承認の可否を回答せず、事実上の「不承認」の立場を貫いたことから、国は行政代執行訴訟を提起。この裁判でも県は敗訴し、国は今年1月から工事に着手し、先月には新たな護岸工事も始まった。
6月に行われた県議選では、玉城氏を支える共産党などをはじめとする「オール沖縄」系の議会与党が惨敗。続いて今月行われた普天間飛行場を抱える宜野湾市の市長選挙においても、「移設反対」の民意は示されることなく、玉城氏が支援した候補が惨敗した。
万策尽きた玉城氏が今月8日から向かった先は米国だった。就任後4回目となる訪米の目的について玉城氏は、「過重な基地負担の軽減」や、米兵が県内の女性に性的暴行を加えるなどの問題が相次いでいることに対する「県民の懸念」を伝えるためなどと説明していた。
米国に到着した玉城氏は9日(現地時間)、共和党系のシンクタンク「ハドソン研究所」のシンポジウムに参加。米兵による性犯罪事件を巡り、日米で合意した通報体制が機能していなかったことなどを問題視し、改善を訴えた。また米国務省と国防総省の日本担当者らと面会し、基地負担に対する抗議を行ったほか、コロンビア大学で講演したという。
13日(現地時間)には、ニューヨークの国連本部で国連軍縮担当上級代表の中満泉事務次長とも面談し、米兵の犯罪行為や、県が推し進める独自の「地域外交」の取り組みについて説明した。地元紙などによると、玉城氏は「決して有事や紛争を起こしてはいけないと真剣に考えて動いているのだと報告と説明ができたことが、4回目にして新たな訪米活動に繋がった」と評価しているという。
一方で、玉城氏が今回の一連の訪米で主要議題として取り上げた米兵による性犯罪行為について、被害者女性からは政治問題化を望まない声も上がっているという。
訪米前の6日の定例会見で玉城氏は、今月5日に発覚した米兵による性的暴行事件について、「被害者の方から、事件を報道されないことを望んでいる」と県警から通達があったことを明かし、「県としても、被害者の心情に配慮し、積極的に発信することは控えたい」と、報道の過熱を牽制(けんせい)していた。
また、玉城氏がこれまで強く問題視してきた、事件発覚から県への情報提供までに時間がかかったことについても、県警の担当者は県議会で「性犯罪被害者のプライバシーを保護するため、報道発表や県への情報提供を控えていた」と理由を明かしている。
報道などによって、被害者に対する誹謗中傷やセカンドレイプなどが起こるリスクがあることなども踏まえ、訪米前には玉城氏自ら、被害者に寄り添う旨の発言をしていた。にもかかわらず、訪米中に玉城氏が一転、大々的に同問題を取り上げた背後には、辺野古移設阻止で行き詰まっていた玉城氏や「オール沖縄」系左派勢力にとって、一連の米兵事件を基地反対の新たな争点に据え直したいイデオロギー的な目的が見え隠れしているとの批判は免れない。
沖縄ではこれまで、米兵による暴行事件がたびたび問題となってきた。1995年に発生した米兵3人による逮捕監禁・婦女暴行事件では、「沖縄県民総決起大会」が行われ、8万人以上(主催者発表)の県民が抗議した。同様の抗議集会に参加したことがあるという男性は「性的暴行事件はあってはならないが、それは基地問題とは別軸で考えていく必要がある」と話した。