松川正則宜野湾市長の死去に伴う同市長選挙が1日告示され、8日に投開票を迎える。自民党県連と公明党県本部が推薦する元職、佐喜真淳氏(60)と、共産党、立憲民主党、社民党推薦の新人の元同市議、桃原功氏(65)、新人で会社代表の比嘉隆氏(47)が立候補を届け出ている。米軍普天間飛行場の返還を巡る政策などを争点に、佐喜真氏と桃原氏の事実上の一騎打ちの構図となっている。各種世論調査によると、両氏の票差はかなり拮抗(きっこう)しているとみられ、支持者拡大に向けた激戦が連日繰り広げられている。(沖縄支局・川瀬裕也)
松川市政の継続と発展アピール 佐喜真氏 玉城知事と「オール沖縄」が支援 桃原氏 子供へのワクチン接種反対訴え 比嘉氏 |
普天間飛行場の返還を日米両政府が合意してから28年が経過した。昨年9月には同飛行場の名護市辺野古への移設に反対する県と国との法廷闘争が県敗訴で決着。玉城デニー県政はなおも埋め立ての設計変更承認を拒否して抵抗を続けるも、政府による行政代執行手続きにより、大浦湾での移設工事が本格的にスタートした。
告示日の1日、街頭に立った佐喜真氏は、「任期の半分もいかず、さぞや悔しかったことだろう」と松川氏の急逝を悼み黙祷(もくとう)を捧(ささ)げた。「市長が2年前に掲げた公約、市民と約束をしたさまざまな事業を、松川市長に成り代わり、市長に当選してやらなければならない」と語り、返還の道筋が見え始めた普天間飛行場の跡地利用などに向け、政府と協調し、さまざまな政策を進めてきた前松川市政の継承と発展をアピールした。
佐喜真氏は、告示に先立ち8月27日に行われた総決起大会で同選挙を、松川氏の「弔い合戦」と位置付け、保守市政の死守を誓った。
一方、桃原氏は第一声で「相手候補は日本政府に忖度(そんたく)をし、宜野湾市民の声を反映させている政策を行っているのか」と、松川市政と佐喜真氏の姿勢を批判。その上で「市民が一番。暮らしが一番ということを念頭に市政運営を見直していただきたい」との声を受け、立候補に至ったと述べた。
桃原氏の第一声には玉城知事をはじめ「オール沖縄」系の国会議員や県議らも駆け付け、玉城氏は「6年前に時計の針を戻してはいけません」と、市政の奪還を呼び掛けた。
比嘉氏は「子どもへのワクチン接種反対」を前面に掲げ市長選に挑んでいるが、佐喜真氏や桃原氏と比べ知名度で劣り、伸び悩んでいる。
松川氏の死去に伴い、異例の短期決戦となった同選挙について、自民県連関係者は「県議・市議たちを中心に選対がどれだけ最後まで動き続けられるかがカギ」だと語る。佐喜真氏が同市長に初当選した2012年以前の約27年間は革新市政が続いていたことからも、同市は盤石な保守地盤でないことは明らかだ。
6月に行われた県議選の得票数を見ても約4000票、革新票がリードしている。ただ、「県議選の得票数がそのまま市長選に反映されるわけではない」(前出関係者)としつつも、徹底した地元回りなどで票の掘り起こしを図っている。
一方、組織力や人員面で佐喜真氏を凌ぐとされる桃原陣営も支持層拡大に余念がない。連日多くの選挙カーと運動員を動員して市内を駆け回り、ネックとされる知名度の向上に努める。
しかし、選対関係者からは不安な声も漏れ聞こえる。近年「オール沖縄」の結束に陰りが見え始めているというのだ。辺野古移設の最高裁敗訴や、6月の県議選での自公らによる「反知事派」の圧勝などを例に挙げ、「かつての翁長(雄志)知事の時のような一体感がなくなってきた」(同関係者)という。
また、基地問題に対する住民らの見方も変わってきたようだ。街頭演説を聞きに来ていた同市在住の男性は、「もう移設工事は動き出しているのだから、いつまでも賛成反対を争点にし続けるのではなく、跡地利用について建設的な議論を進める段階だ」と語った。
同市の有権者数は7万8923人(9月1日時点)。当落ラインとされる2万4000票を突破し、均衡を破ることができるかは、保革それぞれの組織力の結束具合に懸かっている。