カヌーで台湾目指し漂流か
沖縄県石垣市の尖閣諸島・魚釣島に16日、メキシコ国籍の男性が上陸し、第11管区海上保安本部が救助していたことが17日に分かった。男性に政治的意図はないとみられているが、中国公船の領海侵入が常態化している尖閣諸島だけに、緊張感が高まっている。元陸将補の矢野義昭氏は、尖閣でのグレーゾーン事態への対応が急務だと語る。(沖縄支局・川瀬裕也)
元陸将補の矢野義昭氏 不測の事態懸念 グレーゾーンへの対応急務
海保によると、16日午後2時40分ごろ、魚釣島の東海岸で男性が手を振り、救助を求めているのを海保の巡視船が発見。約2時間後にヘリで救助し、石垣市内の病院に搬送した。男性は与那国島からカヌーで出航し、「台湾を目指していた」などと話しているといい、海保は不正出国の可能性も含め、男性の漂流の経緯について調べを進めている。
男性は数日前から与那国島に滞在しており、同事件と関連は不明だが、関係者によると、与那国島では同日、カヌーが1艇盗まれていたという。
事件が起きた尖閣諸島沖の接続水域では中国海警局の艦船「海警」の航行が常態化しており、頻繁に領海侵犯を繰り返している。事件の2日前の14日にも「海警」2隻が、操業中の日本漁船を追い掛ける形で領海侵入をしたばかりだった。
領海侵入を繰り返す艦船の中には機関砲のような武器を搭載しているものも含まれており、不測の事態が発生した場合の懸念が年々強まっている。
これらの動きを受け、政府は昨年8月、危機管理センターに設置していた情報連絡室を官邸対策室に格上げしたが、中国側への対応は、「外交ルートを通じて厳重に抗議する」のみで、具体的なアプローチの変化は見られていない。
そのような中で、中国が尖閣周辺や台湾海峡を含む東シナ海で独自に設定する禁漁期間が今月16日に明け、福建省の港から約1万隻の漁船が海に出た。この中から毎年100~200隻ほどが尖閣周辺に押し寄せている。
これらの問題について、日本の安全保障政策に詳しい矢野義昭氏は、中国の漁民が上陸するなど、「不測の事態も考えられる」と警鐘を鳴らす。
矢野氏は、仮に尖閣諸島が多数の中国漁船に取り囲まれ、漁民に偽装した工作員が島に上陸した場合、「海保だけでは対応は困難になる」と分析。その上、海上自衛隊でも平時権限だけでは対処することが難しいと指摘する。
一方、中国の海警は、3年前に施行された「海警法」に基づき、平時から警備権限を有しているだけではなく、有事の際は党中央軍事委員会の指揮の下、中国海軍と連携し迅速に防衛行動を取ることができるとし、「(不測の事態に対する)日中の対応に大きな落差がある」と指摘し、「グレーゾーン事態への備えは急務だ」と訴えた。
また矢野氏は、上陸したメキシコ国籍の男性についても、素性や目的などについて、徹底的に調べるべきだと主張している。