浦添でシンポジウム 元陸将補・矢野義昭氏が講演
中国の覇権拡大に伴い、台湾海峡を中心に軍事的緊張感が強まる中、現在の沖縄に必要な抑止力について考えるシンポジウム(主催=日本沖縄政策研究フォーラム)が20日、浦添市内で開かれた。元陸将補の矢野義昭氏が「安保三文書の防衛体制は、中国の核恫喝を抑止できるのか?」と題して講演し、米国の核の傘が機能しない現状があるとして「核武装なくして日本の防衛は成り立たない」と訴えた。シンポでは同フォーラム理事長の仲村覚氏の呼び掛けで、県内有志らによる「沖縄を戦場にしない抑止力研究会」が設立され、沖縄から抑止力の重要性を発信していくことで一致した。(沖縄支局・川瀬裕也)
県内有志ら抑止力研究会設立
世論戦こそ国防の最前線 仲村覚氏
中国は近年、覇権拡大の動きを強めており、多くの専門家らが、習近平政権下で数年以内に台湾有事が起こる可能性が高いと指摘。一昨年、銃撃事件で亡くなった故安倍晋三元首相もかつて「台湾有事は日本有事である」と述べている。
矢野氏は冒頭、中国の核戦力は近年圧倒的な勢いで増強されていると説明。ウクライナ戦争によって中国とロシアが緊密化したことを踏まえ、「中露を同時に敵にした時、核保有数で劣勢となる米国の核の傘はもう機能しなくなる」と語り、「核武装を決断しなければ、もう日本の防衛は成り立たない」と危機感を示した。
また、台湾や沖縄を標的とした中国の短距離核ミサイルの配備は既に完了していると明かし、米国は今後、大型空母打撃群などを中心とした「前方展開戦略」から、広域に展開した部隊やミサイル兵器を連携させ戦う「広域機動分散ネットワーク型戦略」へと変わっていくと指摘。南西諸島での米国の実戦力が下がる中、日本が何もしなければ「尖閣諸島(石垣市)は中国に一瞬でとられてしまう」と警鐘を鳴らした。
今年5月に中国の呉江浩駐日大使が、日台関係について、日本が中国の分裂に加担すれば、「日本の民衆が火の中に引きずり込まれる」と発言し、中国の汪文斌報道官も同発言を「完全に正当で必要なものだ」と主張した。これについて矢野氏は「沖縄を守るために自衛隊が動こうとしたら、間違いなく中国が核恫喝(どうかつ)をかけてくる」と断言。その上で、「通常戦力でも核恫喝に耐えられず、米国の核の傘も機能しない以上、日本自ら核保有するしかない」と再度強調した。
また、「トランプ前米大統領が安倍元首相に5回から10回、日本も核保有をしてはどうかと勧めた」(在ワシントンの国際政治研究者・伊藤貫氏の情報)とのエピソードを紹介し、「日本の核保有は、米国の国益にも適(かな)うものだ」と裏付け、「日本が核を持つことは技術的にも財政的にも可能」だとして、「国民の民意と政治次第だ」と語り、沖縄においては、基地問題の解決にもつながると述べた。
続いて登壇した仲村氏は、「沖縄のマスコミや偏った平和教育によって県民の頭の中を覆っている間違った(安全保障の)概念をどこまで破れるかが重要だ」と語り、「基地がなくなれば平和になるとか、基地があるから戦争が起こるという、非常識な抑止力の理解を改めなければならない」と、同抑止力研究会発足の意義を説明した。
仲村氏は、日本政府が中国軍の昨年の演習を分析した結果、従来1カ月程度かかると見られていた台湾上陸作戦が、最短で1週間以内に可能なほどの能力を保有していることが明らかになったとの報道を紹介。その上で、「中国の台湾侵攻の能力は低いから安心して良い」などとする一部の軍事ジャーナリストの主張に対し、「無責任だ」と危機感を募らせ、「常に最悪のリスクを考えて準備するのが抑止力の基本ではないか」と批判した。
また、沖縄は中国共産党の「世論戦・心理戦・法律戦」から成る「三戦」に晒(さら)されているとし、中でも世論戦について、「中国は自国の軍事費を増やすだけでなく、敵国の世論をコントロールすることによって抑止力を倍増している」と指摘。「沖縄の世論戦こそ日本の国防の最前線だ」と語り、「自衛隊も政府も世論戦を戦う組織を持っていない。われわれ民間人が力を合わせて戦うしかない」と呼び掛けた。
同シンポでは、「抑止力の重要性について理解を深める啓発活動を展開する」ことなどが盛り込まれた決議文が読み上げられ採択された。