那覇で安全保障シンポ 元陸将・岩田清文氏が講演
中国の覇権拡大に伴い、台湾海峡を中心に軍事的緊張感が高まる中、台湾有事を念頭に日本と沖縄の安全保障について考えるシンポジウム(共催=沖縄県神社庁、神道政治連盟沖縄県本部)がこのほど、那覇市内で開かれた。元陸将で、元陸上幕僚長の岩田清文氏が「台湾有事は沖縄の有事」と題して講演した。シンポ後半では岩田氏に加え、國場幸之助国土交通副大臣と地元学生らを交えたトークセッションも行われた。以下は岩田氏の講演要旨。(沖縄支局・川瀬裕也、写真も)
国民保護への備えが急務
シェルター建設、本島のみ遅れ
一昨年12月に政府が閣議決定した国家安全保障戦略に「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」と記述されているのは、中国の台頭によって、米国一国では世界の秩序を維持できなくなっているからだ。バイデン大統領は米国の国家安全保障戦略の中で「われわれは中国だけに専念する」とまで明言している。
さらに米国の脅威は中国だけではない。ロシア・中国・イラン・北朝鮮の4カ国が連携を強め、米国を脅かす存在となっている。ウクライナ戦争でこれらの国がどれだけ連携しているかが明らかとなった。
そのような中、中国の習近平国家主席は、「祖国統一は共産党の歴史的任務だ」として、台湾侵攻を本気で準備している。これに対して台湾の蔡英文総統も徴兵期間を延長するなどの法整備を進め、国民の7割が賛成した。それほど台湾でも危機意識が高まっている。
中国は東シナ海を9本の線(九段線)で囲み、その中の海域を「核心的利益だ」と主張しているが、昨年、中国政府が発表した新しい共通地図には、与那国島と台湾の間に新たな10本目の線が追加された。各国は猛反発したが中国に遠慮する日本ではあまり報道されていない。
実際に有事になった場合、まず初めに考えられるのが、台湾の海底にある通信ケーブルの切断だ。中国にとって有利な情報のみを伝える1本のみが残される。その上でサイバー攻撃などを仕掛け、台湾人をパニックに陥れる。それでも降伏しなければ軍事侵攻しかない。
台湾島を占領するためには、制空・制海権が必須となるが、中台の戦闘機がドッグファイトするエリアは石垣まで入ってくる。これらの戦闘機が防空識別圏を超えた場合、航空自衛隊も那覇基地からスクランブル発進する。上空が戦闘区域となった場合、地上は戦闘地域となり、この時点で台湾有事は日本有事・沖縄有事となってしまう。
実際に戦闘が始まると米軍が参戦するが、この時欠かせないのが日本の支援だ。支援が滞れば数で弱い米軍は負けてしまう。中国はサイバー攻撃やフェイクニュース、SNSを駆使して、「米軍支援をやめれば戦争が終わる」と日本に工作をしてくるだろう。沖縄においては、海底ケーブルを3カ所切られたら一切の通信ができなくなる。ここは国がしっかり管理し守るべきだ。
次に中国は台湾海峡とバシー海峡を封鎖し、日本に対しても軍事攻撃を仕掛けてくる。石油の国家備蓄は約8カ月分あるが、日本の発電の3割を占める液化天然ガス(LNG)は備蓄基地がないため、毎日の輸入に頼っている。これらの船は南シナ海を通ってくるが、LNGや石油がやって来るこの海路が封鎖されると、日本は電力不足に陥る。
こうなる前に先島諸島の10万人と、在台湾日本人の2万人、在中日本人の11万人を安全な地域に避難させなければならない。また台湾から数十万人の避難民が押し寄せることも考えられる。それらの対応も政府が中心となって考えなければならない。
現在、国民保護のための、沖縄・先島諸島を含めた政府による広域避難計画はまだ策定されていないが、シェルターの整備に伴う基本方針は先日発表された。与那国や石垣などの市町村が率先して準備しているのに対し、沖縄本島は取り残されている。「対話による平和構築こそが日本が取るべき外交手段だ。シェルター建設ありきではない」と言っている(玉城デニー)知事がいて非常に心配だ。沖縄本島での有事への備えは急務だ。
台湾はシェルターを8000万個持っており、これは1人当たり3・5個分の計算になる。軍関係者に、「観光客のためか」と尋ねたら、「どこにいても必ず国民を救うためだ」と答えた。これが政府・知事の正しい姿勢ではないか。