辺野古移設 責務放棄の姿勢に非難の声

米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡る国の代執行訴訟での判決にもかかわらず、玉城デニー知事は25日、福岡高裁那覇支部の命令に従わず、工事の設計変更を承認しないと発表した。9月の最高裁判決以降、法的義務を放棄し続ける玉城氏に対し、各所から非難の声が上がっている。(沖縄支局・川瀬裕也、写真も)
県庁職員から不満も、退職者急増
「知事の法順守は当然」
辺野古移設に伴い2020年に防衛省が申請した設計変更申請を玉城氏が不承認としたことに対し、国が是正指示を出したことが違法かどうかで国と県が争った訴訟で今年9月、最高裁判所で県の敗訴が確定した。
しかし玉城氏が期限までに承認の可否を回答せず、「実質不承認」の立場を示したため、斉藤鉄夫国土交通相が玉城氏に変わり、承認するために代執行訴訟を提起。

この訴訟で12月20日、福岡高裁那覇支部(三浦隆志裁判長)は、最高裁判決後も法的責務に従わない玉城氏の対応を、「法の支配の理念や法治主義の理念を著しく損なう」と厳しく批判し、設計変更を承認しないことは「社会公共の利益を侵害する」として、国の請求通り県に承認するよう命ずる判決を下し、県は敗訴した。
同日、同裁判所前には、玉城氏を支えるオール沖縄系の支持者らが集まり「不当判決だ」と声を上げた。夕方には県庁前の県民広場にも300人(主催者発表)の支持者らが集まり、「知事と共に戦う」「基地を押し付けるために法も歪(ゆが)めるのか」と訴えていた。
これらの声に呼応するかのように大手地元紙2紙はともに翌日の1~3面を大きく使い、「沖縄の民主主義軽視」(琉球新報)、「代執行は政治の怠慢」(沖縄タイムス)などと批判キャンペーンを展開した。
そのような中、承認期限となった25日、玉城氏はまたしても不承認を貫く姿勢を示した。同日、21日から肺炎で療養中の玉城氏に変わり、溜政仁知事公室長が報道陣の前で声明文を代読した。
この中で玉城氏は、弁護士や法学者らと意見交換した上で、「今回の判決にはさまざまな問題がある」とし、「辺野古新基地建設に反対する多くの県民からの負託を受けていることから、承認処分を行うことは困難」だと表明した。
溜氏によると、玉城氏は今回の判決に対しても上告する構えだといい、「代執行は地方自治の観点や沖縄県民の民意という観点からも問題がある」として、「対話による解決の道を引き続き求めていく」としている。
司法判断が示されてもなお、国との対立姿勢を崩さない玉城氏に対して、各地で批判の声も上がっている。
名前を明かさぬことを条件に取材を受けた県職員の40代女性は「知事が法を順守するのは当然のこと。(職員は)知事に振り回されて不憫(ふびん)だ」と不満を吐露した。女性によると、県庁内では玉城氏の一連の対応に不満を持つ職員も少なくないといい、女性の同僚の中にも退職を考え始めた職員がいるという。
実際、沖縄県では20年以降退職者が増加傾向にあり、3年前と比較して倍増している。この問題は玉城氏と対立する県議会野党・自民党の県議らが「県政が順法精神を踏みにじっていることが、大量の退職者につながっている」として議会で追及するなど、波紋が広がっている。玉城氏の今回の不承認および上告の姿勢は、これらの動きに追い打ちをかけることにならないか、懸念が強まる。
また、移設先の辺野古住民からも冷ややかな声が上がっている。地元紙の報道によると、辺野古商工会理事の玉利朝輝さんは、県の敗訴について「当たり前のこと」と受け止め、「知事は駄々をこねているようにしか見えない」と一喝しているという。
県は上告の構えを見せているが、最高裁で逆転勝訴しない限り工事を止めることは不可能で、早ければ28日には代執行が行われる見通し。年明けにも工事が再開されることになりそうだ。
1996年の日米合意以降、2009年の鳩山由紀夫政権(当時)が「最低でも県外移設」を掲げたり、大浦湾で軟弱地盤が発見され、総工費が膨らむなど、迷走を繰り返してきた辺野古移設問題だが、今回の代執行訴訟判決によって、当初の目的である普天間飛行場の一日も早い危険性の除去に向けて、来年から大きく進展することが期待される。