「先住民族」主張NGOと連携 玉城知事の国連演説

基地反対運動の新たな争点にも

9月19日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で取材に応じる沖縄県の玉城デニー知事(時事)

玉城デニー知事は9月18日、スイス・ジュネーブを訪れ、国連人権理事会で基地負担軽減などを訴えるスピーチを行った。その際、玉城氏と連携しスピーチ枠を用意したNGOが、沖縄県民を先住民族であると主張し活動する「市民外交センター」だったことがこのほど判明した。また、県議会で県職員が休憩中に飲酒をした問題や、県庁から有機フッ素化合物(PFAS)が流出していた問題などが次々と露呈し、県政への批判の声が高まっている。(沖縄支局・川瀬裕也)

PFAS流出隠蔽 県職員の飲酒 不祥事相次ぐ県政へ県民の不満高まる

玉城氏は9月18日から5日間の日程でスイスを訪問。人権理のスピーチでは冒頭、「米軍基地が集中し、平和が脅かされ、意思決定への平等な参加が阻害されている沖縄の現状を世界中から関心を持って見てください」と発言。「日本政府は、貴重な海域を埋め立てて、新基地建設を強行しています」とした上で、「2016年国連総会で採択された『平和への権利』を私たちの地域において具体化するよう、関係政府による外交努力の強化を要請します」と訴えた。

沖縄の人々は先住民族であるとする記載=市民外交センターHPより

このスピーチは玉城氏がNGO団体の発言枠を借りて行われた。その団体は「市民外交センター」で、恵泉女学園大学の上村英明教授が代表を務める。同団体のホームページを確認すると、先住民族の権利などを主張する組織であることが分かる。同サイトには「北米の『ネイティブ・アメリカン』、豪州の『アボリジニ』をはじめ、日本にもアイヌ民族と沖縄・琉球民族が存在しています」との記述がある。

これは、国連がこれまで沖縄の人々は、日本政府に支配されている「先住民族」であるとして、「琉球・沖縄の人々を先住民族として認め、その権利を保護すべき」として計6回に渡って出してきた勧告の趣旨と一致する。

同問題について、玉城氏の見解は一貫している。「これまで沖縄県民が先住民族であるかの議論をしておらず、また、県全体においても大きな議論となっていない」ことを理由に「意見を述べる立場にない」というものだ。

しかし、県の公務として国連でスピーチした際、このような思想のNGOと連携したことは、彼らの活動に加担しているとの批判は免れまい。

玉城氏の一連の国連訪問を担当した県の「辺野古新基地建設問題対策課」に、この件について取材したところ、国連への入館申請やエントリーなどの具体的な手続きは「一般社団法人新時代アジアピースアカデミー(NPA)」に委託したという。同法人の共同代表は市民外交センターと同一の上村氏だ。

県が同団体への委託に至るまでの選定基準や過程などの詳細な回答は得られなかった。沖縄県民を「先住民族」であると主張する団体と連携し、知事が公務として国連で発言することについて適切であったかを尋ねると、「(NGOの)枠を借りただけで、発言は県知事として行ったものなので、(NGO側の思想は)関係ない」との返事だった。

先住民族勧告の問題に詳しい一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラムの仲村覚理事長は、同NGOの英名に注目する。市民外交センターのホームページを見ると、英語での団体名には、日本版にはない「Indigenous(先住民族)」の文字が含まれているというのだ。

仲村氏は、「玉城知事は、『先住民族のための市民外交センター(英名)』の代表者として全世界にスピーチした。これは、沖縄県民が先住民族であると世界に発信していることと同じだ」と危機感を示す。

さらに、今回のスピーチが辺野古移設訴訟の最高裁判決後に行われた点に触れ、「今後は、『基地反対を訴える先住民族』と『基地建設を強行する政府』という対立構造に持っていく恐れがある」とし、今後の反対運動の新たな争点に「先住民族問題」が利用される可能性に警鐘を鳴らした。

県では、有害な有機フッ素化合物(PFAS)を含む泡消火剤が今年6月に県庁舎から付近を流れる久茂地川に流出していたことが9月12日の時点で判明していたにもかかわらず、26日まで公表しなかったことが発覚。さらに、県議会与党会派の会派室で本会議休憩中に県職員2人が飲酒したことが立て続けに報じられ、県民から不満の声が上がっている。

PFASの問題では玉城氏はたびたび、基地反対のカードとして取り上げてきただけに、批判は自身への大ブーメランになっている。

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