
中山市長、防衛協会が抗議
「人権配慮欠く」と謝罪
沖縄県石垣市の人口が7月10日、5万人を突破した。今年3月に陸上自衛隊の駐屯地が開設されたことなどが人口増加の一因となっていることについて、地元紙の八重山毎日新聞が「(人口は)自衛隊員、家族は含めずに公表すべきではないか」などとした社説を掲載し、波紋が広がっている。(沖縄支局・川瀬裕也)
石垣市の中山義隆市長は11日、同市の人口が10日付で初めて5万人を突破したと発表した。少子高齢化や人口の都市部一極集中などの問題が叫ばれる中、地方でかつ離島の人口が増加したことの意義は大きい。
中山市長は人口増加の要因について、移住者の増加に加え、3月に陸自駐屯地が開設された影響もあるとしている。
これについて地元紙・八重山毎日新聞が19日付社説で、「『自衛隊のおかげで5万人に達した』などと言われたら素直に喜べないのが一般市民の受け止めではないか」などと批判し、「自衛隊員、家族は含めずに公表すべきではないか」と主張した。
すると同日、八重山防衛協会の米盛博明会長が同市内で急遽(きゅうきょ)会見を開き、「国家国民のために力を尽くそうと来られた者に対して、住民として歓迎しない方がいいんじゃないかと誘導するような社説だ」と指摘。同紙に対し、「深く反省するとともにおわびの記事を掲載することを強く求める」とした抗議声明を発表した。
中山市長もSNS上で、「極めて人権を無視した職業差別にあたる為、個人として電話で同社に抗議」したと明かした。

これらの批判を受け、同紙は翌20日付1面で「自衛隊員、その家族の皆さまの人権に対する配慮を欠いた表現があったことを深くおわびいたします」との「おわび」を掲載した。
これを受け中山市長は21日、SNSで「社説とはその社の主張を述べる場。同社の根底にある思想を垣間見た気がした」としている。
沖縄本島含め、離島の駐屯地に至るまで、各所の自衛隊員らはこれまで、ボランティアや交流会などを通じて地道に地元住民との信頼関係を構築してきた。今月16日にも石垣駐屯地の女性隊員17人と市民5人が参加し、食事を楽しむ「女子会」が行われたばかりだ。
市民からは、社説を巡る問題が新たな分断を生じさせる原因になりかねないとの懸念の声も聞かれる。
同市では駐屯地が開設した3月にも、市議会において野党議員の自衛官への差別発言が問題となった。共産党・井上美智子市議が、自衛官に対し「町の中では迷彩服で歩かないでほしいという要望もある」と発言し、これに対し自民・長山家康市議が「明らかに職業差別にあたる」と撤回を求めていた。
その結果、3月20日には、「陸上自衛隊石垣駐屯地開設に伴い、自衛隊やその家族及び、駐屯地関係者の人権を尊重する決議」が同市議会で採択されることとなった。
また県においても今年4月から、公共の場やインターネット上での差別的言動解消のため「沖縄県差別のない社会づくり条例」を施行している。条文には「何人も人種、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、社会的身分、出身その他の事由を理由とする不当な差別をしてはならない(抜粋)」とある。
石垣駐屯地の自衛官や家族も沖縄県民であり、職業によって差別の対象となったり、不当に排除されることは当然あってはならない。県が本当に「差別のない社会」を目指すのであれば、今回の社説の問題は重く受け止めなければならない事案だといえる。
政府・防衛省は、台湾有事などを念頭に、南西諸島における防衛力と住民保護の強化を進めている。23日には、松野博一官房長官が石垣島と与那国島を視察し、有事の際の避難用シェルター設置などの検討を進める方針を発表した。
国防の最先端である沖縄において、自衛隊と地元住民との信頼関係を構築することは、今後さらに重要となってくるであろう。