日本沖縄政策研究フォーラム理事長 仲村覚氏が講演

有事の際の国民保護について議論する「沖縄県国民保護研究会」がこのほど発足した。3月25日に浦添市内で開かれた発足集会で、呼び掛け人の仲村覚氏(日本沖縄政策研究フォーラム理事長)は、「県民保護の責任者は県知事」と語り、自治体が主体となった国民保護訓練の実施を求めた。(沖縄支局・川瀬裕也,写真も)
「県民保護の責任者は知事」
沖縄県では3月16日、石垣市に陸上自衛隊駐屯地が新たに開設されるなど、台湾有事への備えが整いつつある。しかし、実際に有事が発生した場合には、国民の保護が大きな課題となる。本島だけでも約130万の人口を有する沖縄にとって、住民の避難は死活問題と言える。
保守系シンクタンクである同フォーラムはこれまで、県に対し国民保護訓練の実施や、国民保護特殊標章の準備などを要請してきた。その結果、1月には那覇市が弾道ミサイルの攻撃を想定した初の住民避難訓練を実施。3月には、県が住民の島外避難の図上訓練を行うに至った。

だが事態は切迫しており、国民・県民のさらなる理解を促進し、避難訓練の取り組みを加速させるため、同研究会が発足するに至った。
「このまま台湾有事が起きたときに、避難の失敗をして、国もほとんど動かず、県もボロボロになってしまったとき、『国は私達沖縄県民を助けてくれない』という歴史を作ってしまう。3年前まで、有事の際に、(県民を)誰がどのように避難させるか、誰も把握していなかった」
仲村氏は、こうした危機感から国民保護の啓発活動を開始するに至ったと説明。多くの県民が「戦争になったとき、沖縄の住民を守る責任者は自衛隊だと勘違いをしている」と指摘。「県民市民の命を守る責任者は沖縄県においては、県知事だ」と強調し、自治体主体で国民保護に取り組む体制を強化する必要性があると訴えた。
その上で、「自衛隊の対処能力(強化)と住民などの国民保護は、両方とも平素から訓練をしなければ実現できない」とし、平素の訓練の重要性を強調した。
集会に出席した宮古島市選出の県議会議員の下地康教氏はあいさつで、「沖縄県民、特に有事が予想される先島地域の避難をしっかりとやっていくためにはどうしたらいいのかを考えていかなければならない」と訴えた。
また、沖縄市議会議員の町田裕介氏と、宜野座村議会議員の仲間信之氏は、議会報告を行った。町田氏は、国民保護特殊標章の準備状況について議会で質問したところ、「何一つ準備されていなかった」と明かし、標章の準備と市民への広報活動を行っていく方向で一歩進み始めたと報告した。
仲間氏は昨年末、国民保護の訓練計画の予定について議会で尋ねたところ、「計画はない。今後も予定していない」との答弁だったが、那覇市が訓練を実施したことなどを受け、令和5年度の予算に「防災アドバイザー」の予算が新たに計上されたと評価した。
同研究会では今後も、県民への啓蒙(けいもう)のための集会や、自治体への提言などを行っていくという。
武力攻撃事態認定の議論必要
日本安全化技術研究所 倉石治一郎所長
元陸上自衛隊で、日本安全化技術研究所の倉石治一郎所長が3月25日、浦添市内で行われた「沖縄県国民保護研究会」の発足集会で「台湾有事における沖縄県民の保護に係る課題」と題し講演した。以下は講演要旨。
◇
国内で使用される「国民保護」は、ジュネーブ条約上では「シビルディフェンス(文民保護)」と呼ばれている。「シビル」は、軍以外の全ての人と組織機関のことを指す。役所や警察消防などだ。これらの組織が住民を守ることが「文民保護」の概念だ。

有事の際、軍事上の必要性と人道とを天秤(てんびん)に掛けて均衡を図るために「区別原則」が定められている。軍事目標や戦闘員のみを攻撃することで、その他のシビル(民間人)の被害が局限される。(軍とシビルを)距離的に離す、もしくは特殊標章等で分かるようにするという基本的な二つの考え方がある。シビルを守るために必要なのが特殊標章だ。
台湾有事が発生した場合、中国は台北を中心として半径800㌔㍍を「戦闘海域」に指定するとしている。その中での県外避難について考えなければならない。陸戦の場合、特殊標章を掲げた場所は攻撃を受けないが、海戦の場合、戦闘海域内の船舶は全て攻撃の対象になる。
この海域を封鎖する列島封鎖作戦をしないと、沖縄県民の保護は成り立たない。つまり、県民を守るためには、政府が自衛隊に防衛出動を下令するしかない。グレーゾーンでの、防衛出動のための「武力攻撃事態」認定についての議論を進めていかなければならない。