世界日報 Web版

「小泉進次郎」という恋から醒める時


辛口評価の大臣デビュー

髙橋 利行

政治評論家 髙橋 利行

 イギリスの劇作家シェイクスピアの戯曲「ヴェニスの商人」に、悪名高いユダヤ人の高利貸しが登場する。シェイクスピアは、その娘・ジェシカの口から「恋は盲目であり、恋人たちは自分たちが犯す愚行に気づかない」という意味深な台詞(せりふ)を語らせる。日本流に言えば、惚(ほ)れてしまえば痘痕(あばた)も靨(えくぼ)の喩(たと)えである。小泉進次郎という政治家に見果てぬ夢を託す大衆の思いも似ているのではないか。

 俗世間には、東京大学やハーバード大学では決して教えてくれないだろう、世知が詰まった爺(じい)や婆(ばあ)の知恵がある。「嫁を貰(もら)う前には、母親の顔をよぉっく見ておけよ」も、その一つである。激情に駆られて恋をし、結婚まで突き進むのも、なかなかドラマチックで素晴らしいに違いないが、その娘の両親や祖父母の顔には、その人物のDNA(遺伝子)が色濃く刻み込まれているからである。

 いかにも自民党然とした、古色蒼然(そうぜん)たる顔触れが並ぶ第4次安倍晋三再改造内閣に、ひときわ、異彩を放つ人物が入閣した。言わずと知れた小泉進次郎である。予測では、宰相批判を続けてきただけに「入閣なし」と伝えられていた。蓋を開けてみれば環境大臣に納まっている。宰相に嫌われている石破茂や、安倍晋三の家庭教師だった平沢勝栄が干されているのに破格の扱いである。人気の高い小泉進次郎を自家薬籠中の物にしようとする思惑や、いつでも解散・総選挙に打って出る布石だと憶測が喧(かまびす)しい。

 それはともかく人物の本質を知るには、そのルーツを尋ねてみることも有力な手掛かりになる。小泉進次郎は、そう遠くない将来、この国の宰相になると太鼓判が押されている有望株だからである。浮ついた人気に惑わされず入念に人物を確かめなければなるまい。

 「世襲天国」と揶揄(やゆ)される永田町でも、4世代から5世代にわたって有力な政治家を輩出している家系はそう多くはない。大所では鳩山和夫、鳩山一郎、鳩山威一郎、鳩山由紀夫・邦夫、鳩山二郎と続く鳩山一族を筆頭に、吉田茂から麻生太郎の系列くらいである。

 だが、小泉又次郎、小泉純也、小泉純一郎、そして小泉進次郎と続く小泉一家も歴(れっき)とした世襲政治家なのである。それも極め付きのユニークな家系なのである。浜口雄幸、若槻禮次郎内閣で逓信大臣を務めた小泉又次郎は背中に倶利伽羅紋々の刺青(いれずみ)を彫り込み、鉄火肌で人気があった。桜吹雪の刺青を背負った江戸北町奉行「遠山の金さん」を彷彿(ほうふつ)させる。娘婿の小泉純也も面白い。立憲民政党の一介の職員だったが、イケメン好みの娘が惚れ込んだ。親の反対を振り切って駆け落ちし、青山の同潤会アパートに隠れ住んだのである。

 探しあぐねた小泉又次郎が新聞の尋ね人欄に広告を出す騒ぎとなった揚げ句、「代議士になるなら許す」と折れた。小泉純也は衆院議員になり、池田勇人、佐藤栄作両内閣で防衛庁長官になったのだから、なかなかの人物だったに違いない。その倅(せがれ)が小泉純一郎である。

 若いうちから「田中支配」の牙城であった郵政省を目の敵にし徹底的に攻撃した。長じても加藤紘一、山崎拓といったYKK仲間を蹴落とし「自民党をぶっ壊す」という狼煙(のろし)を上げて宰相になった。郵政民営化を掲げた郵政解散・総選挙でも、かつての同志に「刺客」を立てて潰した。すべてが規格外の政治家だった。

 小泉進次郎はいかにも現代っ子らしく泥臭くない。「セクシー」でもある。おばちゃんだけでなく若者を虜(とりこ)にする魅力がある。だが、環境大臣としてデビューした「気候行動サミット」関連会合では外国メディアからは「中身がない」と評された。これから骨太の政治家に成長するには「薄っぺらな拍手」を求めるのではなく、泥を被(かぶ)ってでも政策を実行する勇気と胆力、それに結果を出す腕力が必要だろう。

(文中敬称略)

(政治評論家)