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「改憲への本気度と説得力」政治評論家 田村重信氏


ポスト菅 宰相の条件(4)

政治評論家 田村重信氏

たむら・しげのぶ 昭和28年、新潟県生まれ。拓殖大学卒。宏池会(大平正芳事務所)を経て、自民党本部で政調会長室長、調査役・審議役など歴任。慶應大学大学院非常勤講師。現在は、拓殖大学桂太郎塾名誉フェロー、日本国際問題研究所客員研究員、政治評論家。

 自民党職員時代に自分が仕えてきた16人の総理には共通した資質があった。熱い演説ができ、人に支えられる能力があった。特に、中曽根康弘や小泉純一郎はスピーチに長けていて、民衆を奮い立たせる力を持っていた。安倍晋三にも迫力があった。

 今回のコロナ禍で、世界の大統領や首相たちは国民に対して、コロナ対策を自分の言葉で訴え掛けた。しかし、日本においては、専門家が公の場で会見をし、首相の菅義偉は多くを語らなかった。それでは国民を説得させることができず、かえって不安を与えてしまった。次の首相には説得力が求められているといえる。

 宰相には何よりも、憲法改正への本気度が肝要だ。残念ながら、今回の4候補からその本気度が強く感じられない。討論会で行われている憲法改正に関する議論では、コロナ対策でロックダウンを可能にする法整備を例に挙げている。しかし、飲食店のアルコール提供すら止められない。それがどこに起因しているかと言うと憲法だ。厳しい制約をかけるといってもそれは綺麗事にすぎない。

 それ以上に取り上げなければならないのは「自衛隊」と「自衛権」、安全保障に関する問題だ。1992年のPKO(国連平和維持活動)の法整備に関わった際、憲法の壁に何度も阻まれた。日本の自衛隊は、国際法上は、軍隊として扱われているにもかかわらず、日本国憲法により海外での武力の行使は禁じられている。この矛盾を正さなければならない。

 日本の憲法が、他の国の憲法と最も違う点は、軍隊を置くなど、有事における緊急事態条項がないことだ。総裁選の争点の一つである「敵基地攻撃能力」についても、現行の憲法では効果的な対処は難しい。これまで日本が平和を維持できたのは、米軍のおかげだが、いつまでも在日米軍に守られる日本であってはいけない。台湾有事が危ぶまれる今こそ、4候補は、安全保障に関する論議を深め憲法改正を本気で訴えるべきだ。

 日本が直面している大きな課題として他に、少子高齢化が挙げられる。野田聖子が取り上げたことには意義があった。ピーター・ドラッカーが『見えざる革命』で予見したことが、今まさに起きている。生産年齢人口の減少により、世界における競争力の低下が著しい。例えば、1人当たりのGDP(国内総生産、購買力平価)は、2018年に韓国に抜かれている。

 また、OECD加盟国中、GDPに占める教育機関への公的支出の割合は17年、下から2位と最低クラスだ。人材は国の財産である。4候補には、こうした点に危機感が見えない。成長産業と教育への投資に注力し、国際競争力を再起するためにも、手を打たなければならないはずだ。教育問題をもっと議論すべきでないか。

 目の前の暮らしに満足してしまい、チャレンジ精神を失いつつあるのが今の日本だと言える。「脱皮できない蛇は滅びる」というニーチェの言葉があるように、新しい環境に対応することができなければ、生き残ることはできない。宰相は、問題意識をもっと広く持って対処していかねばならない。

(敬称略)(談)

(終わり)

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