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「緊急時に決断できる資質」拓殖大学特任教授 濱口和久氏


ポスト菅 宰相の条件(2)

拓殖大学特任教授 濱口和久氏

はまぐち・かずひさ 昭和43年生まれ。熊本県出身。防衛大学校材料物性工学科卒、日本大学大学院総合社会情報研究科修了。防衛庁陸上自衛隊、栃木市首席政策監などを経て、現在、拓殖大学特任教授、同大学防災教育研究センター長。

 全国的な新型コロナウイルス感染拡大という「有事=緊急時」に対応し続けた菅首相は僅(わず)か1年で退陣に追い込まれた。菅政権は緊急事態宣言の発出を繰り返す中で、「スピード感に欠ける」、「リーダーシップがない」、「首相の顔が見えない」と批判され、国民の期待に応えることができず、徐々に信頼を失い内閣支持率は日を増すごとに低下していった。

 戦後、わが国は伊勢湾台風や阪神・淡路大震災、東日本大震災をはじめとして、気象災害や地震災害に何度も見舞われてきた。これらの災害は、甚大な被害をもたらしたが、地域が限定されていた。今回のように北海道から沖縄までの日本全国で国民が危険に晒(さら)される事態を経験したのは初めてだ。

 本来、国家はあらゆる「緊急時」に対応する危機管理体制を日頃から構築しておく責任がある。だが、わが国は「平時」から「緊急時」へのルールの切り替えをスムーズに行う体制が整備されていなかったために、菅首相は手足を縛られた格好となり、感染拡大を抑えるための機動的な対応を取ることができなかった。 次期首相には、菅政権の新型コロナウイルス対策から浮かび上がった危機管理体制の不備を早急に改善する取り組みが求められる。

 海外では感染症拡大は国家安全保障上の脅威と捉えられているが、わが国ではその認識はなかった。ちなみに、感染症を中心的に担う厚生労働省は基本的には「平時」の役所であり、「緊急時」に対応する能力を有していない。今後、新たな感染症の発生によるパンデミックに加えて大規模自然災害(首都直下地震や南海トラフ巨大地震、富士山の噴火)などが同時に起こる可能性もあり、国家安全保障の立場から、複合災害に対応できるオールハザード型の司令塔組織の創設を行うべきである。

 国民の多くが強制力や罰則のない緊急事態宣言下での社会生活を経験する中、個人の自由をある程度制限する法整備(憲法改正も含む)の必要性を認識するようになった。各種世論調査の数字からも明らかだ。

 憲法は「平時」においてだけでなく、「緊急時」および危機的状況において真価を発揮するべきものでなければならない。現在、日本国憲法には、「緊急時」の明文規定は参議院の緊急集会だけだ。憲法改正による「緊急事態条項」の明記に向けて、次期首相は国民の理解を得るための努力を惜しむべきではない。

 ルネッサンス時代にイタリアで活躍した政治思想家・マキャベリは著書『君子論』の中で、問題を先送りするばかりの「不作為」の指導者(=首相)では、危機を乗り越えることはできないと説いている。憲法改正を先送りすることは危機管理体制の不備を放置することに繋(つな)がり、新たな危機が起きたときの対応にもたつき、国民の犠牲を拡大する「人災」を招くことにもなる。

 「緊急時」に必要な首相の資質は、決断できるかどうかである。決断できない政治は結果的に国民を不幸にする場合が多い。首相が決断するための環境整備としての憲法改正は待ったなしの状態だ。

(談)

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