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怪物・二階俊博の反攻構想 われ米中の「懸け橋」とならん


政界の風を読むー髙橋利行

 政治家は数々の柵の中に生きている。若手であろうと中堅であろうと、実力者であろうと変わりない。まして稀代(きだい)の古強者である二階俊博(自民党幹事長)ともなると十重二十重の呪縛に囚(とら)われている。それが、得体の知れない、掴(つか)みどころがない、二階俊博という怪物を形作っているのである。

 まず県議会議員出身という生い立ちである。県議出身の政治家といえば、竹下登、大島理森、梶山静六ら錚々(そうそう)たる政治家の名が浮かぶ。誰もが辣腕(らつわん)である。だが、かつて田中角栄は「県議出身者は宰相になれない」と烙印(らくいん)を押した。己の地位を脅かす「竹下登にゃ断じて派閥を譲らん」という思惑だけではない。人間を操る、揉(も)め事を捌(さば)くには手練(てだ)れであるにしても、高い志や見識に欠けるという意味なのだろう。

 今を時めく宰相・菅義偉も横浜市議から成り上がった同類である。遣り手が犇(ひし)めく地方議員の群れを押しのけて勝ち抜いてきただけになまじの政治家ではない。官房長官という、言うなれば「よろず相談請負業」では、したたかな腕前を見せた。だが、高々と掲げる旗はついぞ見掛けたことはない。

 二階俊博も、その手の政治家である。国政に参画してから師と仰いだのは、当人も認める如(ごと)く田中角栄である。ともに土建業を足場に伸(の)し上がってきた経歴も似ている。田中角栄はそんじょそこらの政治家とは異なる。桁外れに器が大きい。巨大な派閥を動かし自民党を思うさま操っていた。良くも悪(あ)しくも学び甲斐(がい)があったに違いない。鋭く時勢を読み中国との国交回復に踏み切った。アメリカが懸念するほど「反米」だったとは思えない。

 その配下で、最後は田中角栄を裏切ることになった金丸信も、二階俊博に多大の影響を与えている。自民党の中核にデンと座っていながら当時の社会党、公明党、民社党と誼(よしみ)を通じ「自社公民政権」をつくろうと謀った御仁である。二階俊博が頼った小沢一郎も「政権交代可能な二大政党」を手っ取り早く実現するために自民党を割って出ている。

 「日本人なら誰でも構わないんだな」と揶揄(やゆ)されるほど懐が広かった。二階俊博にしても、復党するきっかけは福田康夫から「そろそろ戻ってらっしゃいよ」と声を掛けられたことである。福田康夫の父・福田赳夫は、二階俊博が師事した田中角栄の不倶戴天の政敵である。

 その二階俊博の周辺が慌ただしい。コロナ禍に追われ自民党総裁選、衆院選が、ここ2、3カ月の間に迫っている。どちらも自民党にとっては大ごとであるが、二階俊博が幹事長の座を死守するか、クビを刎(は)ねられるかが最大の焦点になっている。いつまで勝手気ままにやらせておくのか。怨嗟(えんさ)の声も根強い。先頭に立つ安倍晋三が枯れていない。いくつもの議連の役員に就いて党内を睥睨(へいげい)し再々登板も辞さない。これに麻生太郎、甘利明が組んで、俗に「3A」と呼ばれる。下手に弄(いじ)ると、自民党分裂を招きかねない。

 二階俊博の旗色も決して芳しいものではない。音頭を取って樹立した菅義偉政権が迷走しているからである。コロナ禍の切り札であるワクチン接種が上手(うま)くゆかない。すでに地方選で負け戦が続いている。衆院選の先行指標となる東京都議選でも思わしくなかった。こんな調子で衆院選を勝ち抜くことが出来るのか。さらに不安がある。険しさを増す「米中冷戦」の中で「媚中」と揶揄(やゆ)される人物が幹事長に相応しいのか。それも並みの幹事長ではない。アメリカからは陰に陽に更迭を求められている。

 百も承知の上で、当の二階俊博が、ごく最近「一段落したら、アメリカに行こうと思う。それから中国だよ」と周辺に漏らしている。いつ訪米するかは口を濁す。幹事長を退任してから物見遊山で行くわけはない。安倍晋三や麻生太郎といった「若造」(周辺)にひと泡吹かせてやろうと機を窺(うかが)っているに違いない。

 側近は、太平洋戦争当時、冷え切った日米関係を改善しようとした「新渡戸稲造の『願わくは、我、太平洋の懸け橋とならん』ということじゃないか」と解説する。バイデン政権に「媚中」か否かをその目で確かめてもらう。そして太いパイプを持つ中国に渡り米中両国の理解を促し誤解があれば解きたいのだろう。厚い壁にすごすごと退散する羽目に遭うのか。二階包囲網を、オセロ・ゲームの如く一挙に反転させられるのか。

(文中敬称略)

(政治評論家)