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迫る台湾海峡有事へ備えを


中国共産党100年

―識者はこう見る

拓殖大学顧問 渡辺利夫氏

拓殖大学顧問 渡辺利夫氏

渡辺利夫
わたなべ・としお
拓殖大学顧問 渡辺利夫氏
(わたなべ・としお)
拓殖大学元総長。昭和14(1939)年、山梨県甲府市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。同大学院経済学研究科修了。経済学博士。筑波大学教授、東京工業大学教授を経て拓殖大学に奉職。著書に『台湾を築いた明治の日本人』など多数。

 ハワイ真珠湾に統合基地を置く米インド太平洋軍の新司令官にジョン・アキリーノ海軍大将が就任した。就任に先立つ米上院での指名承認公聴会において、氏は中国による台湾侵攻は2027年よりも前に起こる可能性があるとの認識を示した。

 アキリーノ氏の前任のフィリップ・デービッドソン海軍大将もまた、上院の公聴会において中国は今後6年以内に台湾に侵攻する確率が高い、との見通しを開示した。

 台湾海峡有事に際しては最前線で全軍の指揮を執る米インド太平洋軍の新旧司令官の発言である。縦横に張り巡らされた情報網からの無数のデータを多元方程式で解いて得た結論なのであろう。すべての機密情報にアクセスできる立場にある海軍大将が公にした緊迫の証言であった。

 中国共産党結党100周年を眼前に控えてのこの証言には、圧倒的な重要性がある。

 米中覇権争奪が顕著となったのはトランプ政権下においてであり、この政権は以前のいかなる政権よりも具体的で強力な対中牽制(けんせい)策を採用してきた。台湾との関係強化は無論のことであった。

 2017年12月の国家安全保障戦略には「台湾の合理的な国防上の需要に応え、他からの圧力を阻止するために台湾との関係を維持する」と記された。海峡有事に際しての自らのポジションを明示したのである。対中政策に限っていうならば、バイデン政権はトランプ政権の後継者である。

 台湾有事に際して日本に何ができるか。経済的にも文化交流や人的往来の面からみても、日台は緊密な関係にある。日台の国民感情も極めて親和的なものになっている。相互のこの親密な関係は、30を超える両国間の協定、合意、取決、覚書によって促されてきた。日台関係を遮るものは何もないかにみえる。

 しかし、それらの協定等はいずれも日台双方に設置されている民間窓口機関によるものであって、これが日本という主権国家の法に基づいて執行されるという保証はない。台湾との関係を律する国内法が日本に不在だからである。

 米国は対中国交樹立によって台湾との断交を余儀なくされたものの、同時に国内法として「台湾関係法」を制定させ、以降、米台は準軍事同盟関係を維持してきた。トランプ政権下の台湾政策を支えたものは、明らかに台湾関係法であった。

 中国による台湾への圧力が日に日に高まる状況下で、日台の安全保障対話、情報共有がいよいよ重要な課題となってきた。日台の安全保障対話や情報共有のためには、それを可能にする日本の国家意思を明示した、米国の台湾関係法に類する国内法を欠かすことができない。日本李登輝友の会はこれを「日台交流基本法」と名付ける。日本は日台交流基本法の成立に全力を注がねばならない。

 現在の日本には、台湾という国家は法的には存在していない。日台交流基本法によって法的にその地位を確定した台湾を、日米が共同で防衛するという方向性を打ち立てることが喫緊の課題である。

 米中の軍事力の相対関係は、近年、中国側に有利に展開している。想像したくはないが、海峡の一朝有事に際して米国側に逡巡が生じないとは言い切れない。日本の生存空間を少しでも有利に広げておくことが肝要である。

 守るべき対象としての台湾の法的地位を確定し、海峡有事に即応するための防衛力強化、ならびに強化された防衛力の米軍との「統合」に全力を注がねばならない。

 米インド太平洋軍の新旧司令官の証言が正しいとすれば、そのために私どもに残された時間は、あとわずか数年でしかない。