5Gで迫られる「陣営選択」


ポンペオ演説の衝撃 新局面に入った米中対決(2)

 潮目が変わった――。

 ポンペオ米国務長官ら国務省幹部が最近、盛んに使う言葉だ。トランプ政権が対中強硬路線に転じたことで、国際社会の中国に対する態度も硬化してきた、との意味である。

ラーブ英外相(左)とポンペオ米国務長官

 強大化する中国の報復を恐れ、各国は中国に「忖度(そんたく)」する傾向が強まっていた。だが、米国があらゆる分野で中国を批判するようになったことで、各国も中国に物を言いやすくなったのは間違いない。

 オーストラリアは南シナ海における中国の領有権主張を否定し、インドは「TikTok(ティックトック)」など中国系アプリの使用を禁止した。スウェーデンも中国の教育機関「孔子学院」を閉鎖した。中国問題で「赤信号、みんなで渡れば怖くない」の潮流を生み出したことは、トランプ政権の大きな功績と言っていいだろう。

 次の課題は、この潮流をいかに価値観を共有する国々による結束した行動へと変えていくかだ。ポンペオ氏は先月の対中政策演説で、「民主主義国家による新たな同盟を築くべき時だ」と、国際的な対中包囲網の形成を訴えた。

 米中勢力圏争いの最前線になっているのが、次世代通信規格「5G」だ。中国通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)の5G網を導入した国とは、たとえ同盟国であろうと、中国に情報が漏れるリスクから機密情報のやりとりができなくなる、と米国は警告している。従って、5G網の選択はいわば、米国と中国のどちらの陣営につくのか、の選択でもあるのだ。

 トランプ政権は、各国に安全な5G網構築を呼び掛ける「5Gクリーンネットワーク」というイニシアチブを進めているが、これに呼応する国や通信会社が増えている。日本のNTTなども、米政府からファーウェイ製品を排除した「クリーンな通信会社」の認定を受けた。

 ファーウェイは2月の時点で、全世界で91件の5G商用契約を獲得したと誇示していた。だが、キース・クラック米国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)は6月、アジアメディアとの電話会見で、契約は「2ケタ台前半」に減っているとし、「ファーウェイは勢いを失っている」と主張した。

 ファーウェイにとって最大の海外市場は欧州だが、英国に続きフランスも同社排除を決定。今後の焦点はドイツがどう動くかだが、中国と関係を深めるドイツにも圧力は強まっている。

 ただ、対中包囲網の形成は簡単な話ではない。中国は旧ソ連と違い、世界第2位の経済大国として各国の経済と深く結び付いているからだ。実利が絡むため、自由民主主義という価値観だけで各国を「脱中国」に向かわせるのは難しい。

 このため、米国務省は、中国抜きのサプライチェーン(供給網)の再構築を各国が協力しながら推し進める「経済繁栄ネットワーク(EPN)」という構想を提唱し始めた。脱中国に伴うコストを補う枠組みを提示できるかどうかは、大きなポイントだろう。

 トランプ政権にとってもう一つのネックは、これまで伝統的な同盟関係を軽視してきたことだ。米外交界の重鎮、リチャード・ハース外交問題評議会会長は、ワシントン・ポスト紙への寄稿で、米国に対する同盟国の信頼が揺らぐ中で、「同盟国に強力な隣国(中国)に立ち向かうのを期待するのは現実的ではない」と苦言を呈した。

 それでも、米国が対中包囲網形成に動きだしたことは画期的なことだ。中国の覇権の野望を抑えるには、この機会を決して逃してはならない。

(編集委員・早川俊行)