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「夢ある商品を」、輪島塗バイオリンを世界へ


77歳職人の八井汎親さん、欧米品評会への出品を目指す

「夢ある商品を」、輪島塗バイオリンを世界へ

輪島塗のバイオリンを手にする八井汎親さん=2014年12月13日、金沢市

 石川県輪島市の伝統工芸、輪島塗の技法で漆を施したバイオリンを、世界に広めようと挑戦している職人がいる。この道60年以上の大ベテラン、八井汎親さん(77)同市。「いい音が出ると認められれば世界的発見になる」と話し、欧米の品評会への出品を目指している。

 華やかさと丈夫さが持ち味の輪島塗。バブル期には高級な漆器もよく売れたが、近年は不況が続き、後継者不足も深刻だ。八井さんは「夢を持てる商品を」と、これまでもパソコンのキーボードや三味線などを輪島塗仕様に。常識にとらわれない発想は注目を集め、好評を博してきた。

 バイオリンに挑戦するきっかけは、宣伝のためパリを訪れた際、レストランや列車内など至る所でバイオリン演奏を目にしたことだ。豊かな音色に聴き入り、「輪島塗で作ってみたい」と思った。「バイオリンに塗るニスは仮の漆。本物でもできる」。成功すればチェロなどにも応用できる。

 本格的に取り組み始めたのは2013年秋。知人のつてで名古屋市のバイオリン製造会社を紹介してもらったが、当初は「高い漆を使って失敗したら大損するぞ」と反対された。

 頼み込んで承諾を得たものの、制作は苦心の連続だった。漆器のように何度も塗り重ねると良い音が出ない。とはいえ、工程を変えてしまっては輪島塗の意味がない。漆を薄い茨城県産のものにし、調合にも工夫を凝らして7丁を完成させた。

 昨年12月、金沢市でのコンサートで輪島塗バイオリンが披露された。光沢を帯びた深みのある赤色で、音色には重厚感がある。バイオリニストや指揮者からは「今までにない音」「まろやかだ」などの声が聞かれたという。

 商品化のめどは立っていないが、八井さんの下には関係者からバイオリンに関する論文や資料が届けられ、「名器ストラディバリウスに代わるものをみんな探しているのでは」と感じる。米ニューヨークやオハイオ州で開かれる品評会の事務局に出品を打診する手紙を出し、返事を待っている。