世界日報 Web版

大学1年の惨敗の夜、芽生えた挑戦者の気骨


ウルフ・アロン選手、 金で史上8人目の 「柔道3冠」 を達成

大学1年の惨敗の夜、芽生えた挑戦者の気骨

柔道男子100㌔級で獲得した金メダルを手にするウルフ・アロン選手=29日、日本武道館(時事)

 五輪初出場で金メダルに輝いた柔道男子100キロ級ウルフ・アロン選手(25)=了徳寺大職員=は、かつて世界の壁にぶつかった。頼みとしたスタミナもパワーも通じず、なすすべなく敗れた夜、恩師が伝えたのは挑戦者の気骨。「柔道3冠」への新たな歩みが、そこから始まった。

 「あんな負け方は見たことがない」と話すのは、東海大浦安高校(千葉県)時代の恩師、竹内徹さん(61)=現東海大師範=。東海大1年だった2014年10月、米国で開催された世界ジュニア選手権に同行し、準々決勝でロシアの選手に2度も投げられ、惨敗する姿を目の当たりにした。

 高校時代は自ら考えて行動、稽古ができる優等生。1学年先輩には、後にリオデジャネイロ五輪金メダリストになるベイカー茉秋選手がいた。竹内さんは「打ち込みの一本一本は半端じゃなかった。これほど丁寧に、気迫を込めてやる選手はいなかった」と絶賛。スタミナも抜群で、いずれ世界に出て行くと確信を深めた。

 その教え子が手も足も出なかった。「力の差は歴然。悔し涙すら通り越していた」と竹内さん。「スタミナ、パワーのウルフと言われるが、世界に出てみれば非力だよな。世界に通用する筋力を意識しないと駄目だな」。惨敗の夜、竹内さんが伝えたかったのは挑戦者の気骨。ウルフ選手はこらえるように聞いていた。

 竹内さんは「今となっては、あの負けはよかった。あの子はそれをプラスに変えた」と振り返る。これを機に一層のスタミナとパワーを身に付け、外国人選手と渡り合えるまでに。17年に世界選手権で初優勝し、18年は階級無差別の全日本選手権も制した。五輪の頂点に立ち、史上8人目の柔道界「3冠」を達成した。

 五輪直前、竹内さんは総仕上げとしてウルフ選手を指導し、「強気で、妥協せず、平常心で挑戦しなさい」と言って送り出した。決勝の激闘を制したのは、恩師と仕上げた大内刈りの一閃(いっせん)だった。