世界日報 Web版

柔道人生変えた一つの敗戦「10戦9勝ではダメ」


初戦の怖さを知った高校総体、隅々に意識が及ぶように

柔道人生変えた一つの敗戦「10戦9勝ではダメ」

柔道女子52㌔級の準々決勝で攻める阿部詩選手(右)=25日、日本武道館(時事)

 「10戦9勝ではダメや」。柔道女子52キロ級、阿部詩選手(21)=日体大=には、柔道人生を変えた一つの敗戦がある。そこからスターへの階段を駆け上がり、東京五輪では同階級で日本女子初の金メダリストになった。

 兄の一二三選手(23)は「一歩一歩進んでいってほしい」との思いから名付けられたが、詩選手は「お父さんが病院で顔を見て『詩や』って決めたみたい」と明かす。

 2人が通った兵庫少年こだま会の高田幸博監督は「天真らんまん。一二三がやることは自分もすると言って聞かない。これにはお父さんも困っていました」。兄に遅れること2年、5歳の少女は晴れて入会。兄を教科書に見よう見まねで覚え、試合で大きく口を開けるしぐさも同じ。高田さんは「そこまでまねるか」と苦笑する。

 着実に力を付け、中学生で講道館杯に出場。天性の身体能力と瞬発力に裏打ちされた技の多彩さ、抜群の勝負勘で勝ち星を重ねた。

 詩選手自身が「柔道人生が変わるきっかけ」と話すのが、高校1年で優勝を期した全国高校総体。まさかの初戦敗退に人目もはばからず泣き、1週間立ち直れなかった。「負け慣れてない」。夙川学院中高で指導した垣田恵佑さん(30)=現・佐久長聖中高監督代行=が懸念していた通りだった。

 垣田さんによると、当時監督だった松本純一郎さん(53)は「10回やって9回勝てるやつはダメや。10回勝つやつがほんまに強いやつや」と口を酸っぱくしていた。垣田さんも「失敗から何を学ぶか」と説いた。

 初戦の怖さを身をもって知り、ルールの変更点など隅々に意識が及ぶようになった。一皮も二皮もむけ、2018年に初の世界選手権できょうだい同時優勝を果たした。五輪の大舞台での再現に挑んだ2人。先に金メダルを獲得した詩選手は、兄の勝利を見届けると、跳び上がって喜びを表現した。