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阿部詩、因縁の相手の徹底マークを寝技で打開


金が決まると畳をたたき涙、「努力が報われてよかった」

阿部詩、因縁の相手の徹底マークを寝技で打開

柔道女子52㌔級決勝で、フランスのブシャール(右)と対戦する阿部詩=25日、日本武道館(時事)

 決勝でぶつかったブシャールは、女子52キロ級の阿部詩にとって因縁の相手だった。2019年11月のグランドスラム大阪大会での敗戦が、国際大会で海外選手に喫した唯一の黒星。「尊敬する選手。最後の相手にふさわしい」。頂点を懸けて戦うのは、望むところだった。

 ブシャールは開始から果敢に奥襟をたたいて重圧をかけてきた。すっと潜り込んで得意の肩車を何度も仕掛けてきたが、詩は落ち着いてさばいた。延長4分すぎ、肩車がつぶれた際にできた隙を逃さず、たくみにひっくり返して抑え込んだ。

 ほぼ両者の位置が動かない、がっちりとした崩れけさ固めだった。「努力がやっと報われてよかった」。金メダルが決まると畳をたたいて涙した。

 18年に初めて世界女王となった後も、大舞台までの歩みは順調だった。兄の一二三と同様、ライバルから徹底的に研究されてきたが、寝技を鍛え上げ、柔軟な戦い方を身に付けて打開してきた。

 兵庫・夙川学院高(現夙川高)時代。今年6月の世界選手権で48キロ級を制した角田夏実(了徳寺大職)が苦手だった。職人芸とも言える関節技やともえ投げの餌食となっていた。「本当に何もできなかった」という寝技を強化するため、強豪校へ出稽古に行った。

 山梨・富士学苑高では、レギュラー外の選手にもかなわず悔し泣き。同校の矢崎雄大監督は「寝技は簡単に成果が出ない。反復練習が必要」と惜しみなく技術を伝えた。地道な稽古を続け、今では強敵を沈める武器にした。

 立ち技でペースがつかめなければ、身上だったがむしゃらさを抑え、冷静に展開できるようになった。角田は詩の変化についてこう語る。「今は緩急がついているというか、試合運びがうまくなった。がんがん出てこなくなると(相手は技を)掛けづらい」

 右の釣り手を警戒されて攻めあぐねる試合もあったが、慌てず4戦を勝ち抜いた。「立ってよし、寝てよし」の理想形を地でいき、21歳にして見せる落ち着き。すごみを存分に示した栄冠だった。