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金属彫刻の伝統の技、聖火トーチに込め


「人生の花咲かす」、エンブレム手掛けた彫刻師の佐藤さん

金属彫刻の伝統の技、聖火トーチに込め

聖火リレーのトーチに刻まれた大会エンブレムと五輪マーク=3月24日、東京都中央区(時事)

金属彫刻の伝統の技、聖火トーチに込め

東京五輪聖火トーチに刻まれたエンブレムの金型を手掛けた金属彫刻師、佐藤英夫さん=3日、東京都足立区(時事)

 東京五輪聖火トーチの正面に輝く「組市松紋」の大会エンブレムと五輪マーク。金属彫刻師の佐藤英夫さん(79)=東京都足立区=は「江戸から伝わる金属彫刻の仕事を次世代に知ってもらえれば」と願い、金型の制作に当たった。この道64年。磨き上げた技術を注いだトーチを手に聖火ランナーとして走り、「人生の花を咲かせたい」と意気込んできた。公道走行は中止されたが、トーチを重ね合わせる「トーチキス」で18日、聖火をつないだ。

 金属に模様を入れる鋼鉄製の工具、「タガネ」を使う手彫り彫刻を始めたのは15歳の春。生まれ育った栃木県大田原市を離れ、東京・浅草の金型メーカーに弟子入りした。タガネを打つ金づちを握る右手の人さし指に、たびたび血豆ができるほど仕事に打ち込んだ。

 前回東京大会が開かれた1964年に独立。聖火最終ランナーを務めた同世代の坂井義則さんがトーチから聖火台へ点火する姿に、「負けてられないぞ」と奮い立った。専門学校に通うなどして腕を磨いた8年後には、第1回アテネ大会優勝メダルの復刻版作製に当たり、原型彫刻を任されるまでになった。

 「培った技の集大成」という今回のエンブレム作製。最も難しかったのは、72カ所ある幾何学模様の接点の仕上げだ。タガネ彫刻で角を極限まで削りながら、プレス加工の圧力に耐える強度を持たせるのが腕の見せどころだった。接点部分は100分の3ミリほどになったが「試作はなく、一発で完成させた」という。

 聖火リレーに備えこの1年間、水入りのペットボトルをトーチに見立てて、自宅近くの公園を走ってきた。「人生の花咲く春はただ1回。本当は走りたかった」と無念さをにじませる。それでも、「下町ものづくりの匠(たくみ)の技を世界に見てほしい」と穏やかに語った。23日の開会式で、トーチから聖火台に火がともされる瞬間を楽しみにしている。