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精神科医の患者への性暴力 法改正による被害の根絶を


《 記 者 の 視 点 》

 鹿児島県内の精神科クリニックに通院中、自殺した女性の遺族らが精神科医と患者の性的関係を禁じるための法改正などを求めていることを紹介する記事を掲載した(昨年12月10日付「教育 家庭」面)。

 女性は主治医と男女の仲になっていた。一見すると、大人同士の恋愛感情のもつれか、精神を病んでのことかと捉えがちになる。しかし、彼女の死の背景には、人助けのはずの医療行為による人の心の“支配”という、重大な人権侵害が潜んでいると考えたからだ。

 遺族と共に活動する「市民の人権擁護の会 日本支部」代表世話役・米田倫康さんは4日、フェイスブックで患者との性的関係とは別に告発した詐欺罪について、最高裁第二法廷が被告(主治医)の上告を棄却したと報告した。そして「これで懲役2年執行猶予4年がほぼ決まったと言えるでしょう。これからが本当の戦いになります」と、決意を新たにする。

 米田さんらの調査では、少なくとも女性2人が自殺したほか、問題の医師による性的被害は約30件に上っている。診療報酬をだまし取った罪に対する刑事処分が確定すれば、当然、行政処分の対象となる。しかし、これだけでは数カ月間の医師免許停止で終わる可能性がある。

 医師と患者が性的関係を持つことは明らかに「医道」に反する。海外には、精神科医が治療中の患者と性的関係を持つことは性暴力として厳しく取り締まる国がある。ドイツや英国などだ。つまり、「犯罪」として罰せられるのである。

 患者は精神的に弱っている場合が多い上、向精神薬を処方する権限がある医師は、医療行為を通じて患者の心を、自分の都合のいいようにコントロールすることが可能だからだ。

 精神分析学の創始者フロイトは、精神科の患者が悩みを聞いてくれる主治医に恋愛感情を持つことを「転移性恋愛」と呼んで、注意を促している。彼の理論には多くの問題点があるが、精神科医だけではなく、他の診療科の医師と患者との恋愛には注意が必要なことは確かだ。

 実際、自殺した女性のスマホには「そんなこと言うなら頓服ださない」と、処罰的な断薬を示唆するメールが残されていた。遺族らは、主治医が立場を利用して女性の心を支配し、精神的に追い詰めていったとみているのだ。

 遺族や米田さんらの「本当の戦い」は二つある。冒頭で紹介した記事にも書いたが、一つは、問題の精神科医に対する行政処分が詐欺事件だけを判断材料にされないようにするため、事件になっていない性的被害についての情報を、医師の行政処分を所管する医道審議会に伝わるようにすること。

 また、日本精神神経学会は「専門的技能および地位の乱用を行ってはならず、精神を病む人々からのいかなる搾取も行ってはならない」と倫理綱領を掲げるが、法的効力はない。専門的な知識や薬の処方によって、患者の心を支配という、重大な人権侵害を阻止するためには、法改正によって精神科医と患者の性的関係を「犯罪」にするしかない。これが二つ目の戦いだ。

 精神科医への行政処分がどのようなものになるかをフォローするのは当然のことだ。精神科クリニックと精神疾患が増える中、精神科医との個人的な関係には十分注意が必要であることを社会に周知することもメディアの責務だ。

 社会部長 森田 清策