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尖閣・久場島で共同訓練を


「台湾有事」のシナリオ―日米台識者に聞く(8)

元空将・東洋学園大学客員教授 織田邦男氏(下)

元空将・東洋学園大学客員教授 織田邦男氏

元空将・東洋学園大学客員教授
織田邦男氏

日本が今できることは。

 沖縄県・尖閣諸島に久場島という島がある。日米地位協定上は米国の専用射爆撃場だが、米中国交正常化前年の1978年に使用が凍結され、それ以降使われていない。まず今やるべきことは、この久場島で日米共同訓練を実施することだ。米国務省が凍結を解除すれば、今すぐにでもできる。なぜ今、この島のことを取り上げるかというと、台湾有事の戦略的要地となり得るからだ。

 久場島は尖閣諸島の他の島と比べて平坦(へいたん)な地形で、もし中国がここに地対空ミサイルS400を運び込めば、沖縄の嘉手納基地は射程圏内に入り、無力化される。中国にとって台湾周辺の制空権を奪取するには、嘉手納の無力化は絶対必要条件であり、久場島が戦略的要地となり得るわけだ。

 平時に、海上民兵を使ってS400を搬入すれば、自衛隊は手出しできない。海上民兵は普段は漁船で、中国海警局がエスコートして領海侵犯した場合、平時なので対応は海上保安庁になる。久場島に民兵が上陸して何かを荷揚げしていても、取り締まるのは海上保安庁または警察だ。

 いったん設置されたものがS400と分かった時点で、嘉手納の米空軍はグアムまで後退するだろう。那覇基地の空自戦闘機も本土に後退せざるを得ないかもしれない。これだけで中国は米国の参戦を遅らせることができる。

 わが国は有事法制、安全保障法制を整備してきた。だが一番の弱点はこれまで手を付けて来なかった平時法制である。この弱点を突くのが今述べたシナリオであり、十分あり得る。

海上保安庁では十分に対応できないのか。

 海上保安庁は諸外国のコーストガードとは全く違って純粋な警察だ。日本を守るのは自衛隊だけだと思っている人が多いが、平時に日本を守るのは海上保安庁、警察だ。そこから徐々に軍に移行していくのが諸外国のありようだ。だが、海上保安庁法では、海保には日本を守る任務が与えられていない。

 また同法25条には、この法律のいかなる規定も、海保が軍隊の機能を営むことを認めると解釈してはならないと書いてある。国際法的には、どの国でもコーストガードは第4の軍隊であり、いざというときには自衛権行使ができる。だが海保は自衛権どころか領域警備すら任務を与えられていない。昨年、自民党国防部会が相当議論して法律を変えようとしたが、国土交通部会から横やりが入り、実現に至らなかった。

他に法律面で必要な対応は。

尖閣諸島

 小泉政権で有事法制、安倍政権で安全保障法制が成立し、有事には曲がりなりにも自衛隊が動けるようになっている。だが憲法の制約でどうしてもできないのが、有事、平時ともいえないグレーゾーン事態における対応である。憲法9条はもともと非武装を想定していたが、警察予備隊を作って解釈を180度変えた。その代償として自衛権行使に高いハードルを設けた。

 国会で武力攻撃事態を認定して、政府が防衛出動を下令し、それを国会が承認してようやく自衛権行使ができる。諸外国から見ると、防衛出動は「宣戦布告」のように捉えられる。軽易な自衛権行使でも「宣戦布告」のように捉えられ、日本が戦争を決断したとみられるのは決して得策ではない。しかし、それがないと自衛隊は出動できない。これは9条の欠陥だ。自衛権行使のハードルを上げた結果、グレーゾーン事態には対処できなくなったのだ。

日米間には現在、台湾有事を想定した計画はないのか。

 私が現役の時代はそれを行う根拠がなかったが、昨年4月の日米首脳会談の共同声明に、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と明記された。これを根拠におそらく頭の体操ぐらいはやっているだろう。具体的な作戦計画はまだまだだろうが、今までの積み重ねがあるから、基礎はあると思う。

有事の際の民間人の退避については。

 台湾有事では沖縄の先島諸島が戦場になる可能性があるので、住民10万人を事前に避難させなければならない。これ自体は戦闘が始まる前に政府が決心すればいい話だが、そうなると台湾は敗北主義に陥ってしまうかもしれない。戦わず逃げたいと思っている台湾住民はわれわれが思うより多い。それを念頭に置く必要もある。

(聞き手=政治部・亀井玲那)


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