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工芸品販売や後継者の育成支援


職人の手助けしたい

NPO法人「伝統工芸つくも神」代表理事 橋村 舞さんに聞く

 「もったいない」という日本語が、環境を守る世界共通語となっている。日本は昔から道具との縁が深く、モノを100年使えば魂が宿るという「つくも神」信仰もある国だ。その名を冠するNPO法人「伝統工芸つくも神」では、伝統工芸品の販売会や体験イベント、そして工芸品を作る職人へのサポートにも取り組んでいる。代表理事の橋村舞さんに話を聞いた。
(聞き手=石井孝秀)

モノ大切にできれば 人も大切にできる
モノ通じ心豊かになれば 世界も変わる

NPO法人「伝統工芸つくも神」代表理事 橋村 舞さん

はしむら・まい 福岡県出身。国家資格キャリアコンサルタント・キャリアカウンセラーとして、経営者・公務員や教員のキャリア相談に関わる。妊娠・出産後に、故郷の久留米絣と出合い、伝統工芸品を作る職人のキャリア支援を開始。2年前にNPO法人「伝統工芸つくも神」を設立。現在は、職人の困り事をサポート、伝統工芸アンバサダーの育成、学校や企業・イベントでの親子向けキャリア教育を実施。

伝統工芸品に関心を持つようになったきっかけは。

 私は家族が欲しくて大学を卒業してすぐ結婚した。しかし、子供ができず離婚し、ネットカフェで半年間生活するほど衣食住が荒れた。その後、再婚して娘を妊娠してからは、着る服などしっかり気を遣うようになった。その時、祖母が着ていた地元の工芸品である久留米絣(くるめかすり)が懐かしくなり、織元を訪ねて生地をもらい、自分で服を作るようになった。

 そうしていたところ、祖母が私に着物をくれた。祖母が結婚の時に曾祖母から渡された久留米絣の着物で、70年以上前のものだったが普通に着れることに驚いた。何よりその着物に70年以上のストーリーが詰まっており、受け継ぐ重みを感じた。

 その後も子供のために良い物を探すと、だいたい自然由来で国産の伝統工芸品に行き着くことが増えた。だが同時に、伝統工芸の職人たちが高齢化によって廃業し、どんどん数を減らしている現状も知った。私はキャリアカウンセラーの資格を持っていたので、モノづくりをしている人たちの相談相手になって手助けしたいと思うようになった。

同法人では職人支援も行っているが、具体的な活動は。

 例えば、定年退職した人や子育てしている人の中には、日本文化に関わりたいという人がいるので、職人たちがいろんな場所で開いていた体験教室をオンライン化するなど、学びの場を整えた。そういった取り組みを続けることで、伝統工芸の後継者育成のきっかけになればと考えている。

 また、販売先の販路も課題だ。企業との商談が始まっても、安く買い叩(たた)かれるケースがある。作り手側も広めたいという思いから、つい安くしてしまうのだが、それでは作れば作るほど赤字になる。実際、原料や材料の値段が上がっているにもかかわらず、10年前や20年前と商品の値段が変わっていないことも多い。そこを適正価格にしたり、紹介する企業もちゃんとしたところを選ぶなどの商談サポートも行っている。

最近は伝統工芸品に触れた経験がない人も増えている。

 久留米絣の子供服のレンタルもしているのだが、小学生までに本物に触れたことがあるかどうかは大事なことだと考えている。その人の20年、30年後の価値観や判断基準に影響を与えるからだ。

 浴衣を着て花火大会に行った思い出があれば、大人になっても着たり、あるいは子供にも着せたいと思うはずだ。また、七五三などで正絹の着物を着て、絹の柔らかさや肌触りを感じたことのある子と、写真用の時だけポリエステルの着物をレンタルで着た子とでは、大きな温度差があるだろう。

 これらは皆昔、当たり前のようにあった日用品だった。畳ですら、今はポリエステル繊維のものがほとんどで、草の匂いもないし、寝転んでみて気持ちがいいと感じる人も少ないのではないか。

 法人では子供向けに和紙の体験会も行っている。日本に和紙があったからこそ、昔の貴重な資料がたくさん残っており、歴史の研究も進んできた。だが、日本人で和紙について話せる人はほとんどいない。和紙を作る技術がユネスコの無形文化遺産に認定されているにもかかわらずだ。

 私の娘は来年小学校だが、通っている保育園には外国籍の子供がたくさんいる。子供たちの間では、自分の生まれた国の話をするのが当たり前で、日本で生まれた娘がどう育つのか、一人の親としてとても気になっている。

 私は生まれ故郷の久留米絣があるだけで、足元がしっかりするのを感じる。久留米絣が褒められるのは自分のことのように嬉(うれ)しい。自身の生まれ育った地で培われた文化・風土がそこに込められているからだ。

 娘は東京育ちで、故郷のような所はないが、久留米絣を通じて祖母や曾祖母とつながることができる。伝統的に受け継がれてきたモノが、娘の生きる上でのアイデンティティーにつながってほしいと願っている。

活動を通じて人々に訴えたいことや自ら学んだことは。

 私たちは口では「モノを大事にしよう」と言うが、行動が伴うのは難しい。私たちの社会は大量生産されたものを大量消費する暮らしに慣れており、簡単ではない。

 しかし、モノを大切にできる人は自分を大切にできるし、人との関係性も大切にできる。私自身、これまで自分軸を中心に生きてきたが、この活動をするようになって、自分や家族との時間を大切にできるようになった。未来を軸に考えるようになったことで、生き方が楽になってきたと感じる。

 面倒なことも楽しいと思えるようになったし、人をうらやんだりもない。自分の生き方に芯ができ、人生を肯定できるようになって、自分でも驚いているほどだ。

 モノを通じて人は心を豊かにすることができる。心が豊かになれば、世界も変わっていく。それを伝えていきたい。


【メモ】「意外と『つくも神』って言葉を皆さんご存じないんです」と苦笑いしながら、「もったいない」という言葉と同じくらい、「つくも神」という言葉が国内外に広がってほしいと話していたのが印象に残った。
 自然由来の材料で作られる伝統工芸品は、国連の掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にも通じるものがあるだろう。日本人が積み上げてきた伝統を、これからも忘れずに紡いでいきたいと思う。