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へき地校に教育の原点あり


地域と深い関わり

全国へき地教育研究連盟会長 柿崎 秀顕氏に聞く

 人口減少に伴い教育現場にも少子化の波が襲う。地方の過疎化が進めば、町村合併や学校の統廃合が進む。その一方で、以前より「へき地に教育の原点がある」と呼ばれたへき地校教育に近年、注目が集まる。

 へき地・複式・小規模性をもったへき地校教育こそ教育の先端を走っていると説く全国へき地教育研究連盟の柿崎秀顕会長(洞爺湖町立洞爺湖温泉小学校校長)にその優位性などを聞いた。

(札幌支局・湯朝 肇)

馬の餌やりや田植え体験
小規模校でコミュニケーション向上

かきざき・ひであき昭和36年9月生まれ。59年、道都大学社会福祉学部卒業。60年、北海道七恵養護学校おしま分校教諭として初赴任。平成22年、赤平市立茂尻小学校教頭。24年、芦別市立西芦別小学校校長。その後、胆振管内の三つの小学校の校長を務め、令和2年に洞爺湖町立洞爺湖温泉小学校校長として赴任する。平成30年度から全国へき地教育研究連盟会長に就任。

かきざき・ひであき昭和36年9月生まれ。59年、道都大学社会福祉学部卒業。60年、北海道七恵養護学校おしま分校教諭として初赴任。平成22年、赤平市立茂尻小学校教頭。24年、芦別市立西芦別小学校校長。その後、胆振管内の三つの小学校の校長を務め、令和2年に洞爺湖町立洞爺湖温泉小学校校長として赴任する。平成30年度から全国へき地教育研究連盟会長に就任。

近年、地方において小中学校の統廃合が進んでいますが、そもそもへき地校というのはどのような学校なのでしょうか。

 へき地教育には大きく三つの特性があります。それはへき地性、小規模性、複式形態から成り、これは都市部の学校にはない特性です。このうち、へき地性とは町から遠い所にあり、バスなどでは通学できない学校のことです。小規模性とは児童生徒の数が少ない所。私が現在勤めている洞爺湖温泉小学校の全生徒数は31人です。ここに赴任する前の安平町立遠浅内小学校は45人でした。いずれも小規模です。

 また、2学年合わせて生徒が16人以下であれば、一つの教室で2学年を同時に教える複式学級にしなければなりません。そうした三つの特性をもって教育しているのがへき地校教育です。現在、全国には約3万校の小中学校がありますが、全国へき地教育研究連盟に加盟しているのは3000校ほどあり、とりわけ北海道は道内全体の約40%がへき地校と言われています。

へき地校こそ教育の先端的動向を担っているとのことですが。

 私の体験からお話ししたいのですが、私が小学校の校長になったのは今から8年前です。校長として赴任したのはこの洞爺湖温泉小学校で5校目です。それら5校は全てへき地校ですが、そのうち芦別市立西芦別小学校、むかわ町立仁和小学校、同町立富内小学校の3校は最後の校長として閉校に携わりました。

 そこで感じることは、へき地・小規模・複式校は一つに、地域との関わりが非常に深いということです。かつて、むかわ町立仁和小学校で写生会がありました。町内の牧場で馬をテーマに描くことになりました。むかわ町の隣の日高管内で毎年「馬の絵コンテスト」を行っているので、そこに出品することを踏まえての写生会でした。早速牧場に行ったところ、生徒たちの馬の扱いは慣れたもので、近所皆知り合いですから、教師のわれわれが馬の馴(な)らし方や餌のやり方など逆に教えられるというような感じでした。

 また、閉校に際して思い出の学校キャラクターをつくるに当たっては、近くの郵便局から「絵馬を作ってはどうか」という提案を受け、学習のための教材も提供してくれるなど、これらは地域との密着がなければできないことでした。

 この他、自然体験学習では、近くの農家から田んぼをお借りし、そこで田植えの実践を行い、夏になれば夜に地元でホタルを見る。そういう自然体験が割合簡単にできるのが、へき地校の良さだと思っています。

 文部科学省は現在、地域と学校の関わりを深めるコミュニティー・スクールを進め、「社会に開かれた教育課程」を進めていますが、へき地・小規模・複式校では以前から行われていることであり、そういう意味では先端的な取り組みをしてきたのだと思っています。

文科省は現在、AI(人工知能)やIT(情報技術)を駆使した「ソサイエティ5・0」社会に合わせてICT(情報通信技術)教育を進めていますね。

 ICT教育は北海道の小中学校でもチラホラ見られるようになりましたが、多くの離島のある長崎県の対馬では、すでに4年くらい前からタブレットを導入し、生徒全員が1台ずつ持って授業を受ける態勢をつくっています。

 北海道教育委員会でもICT教育をへき地・小規模・複式校で導入してほしいとの要請があり、今後広がっていくと思います。例えば、ここの小学校では現在、道徳の授業を町内にある洞爺湖町立とうや小学校とIT機器を使って遠隔授業を行うことができるように準備を進めています。

 タブレットが世の中に出てきた頃、へき地校の先生方は、へき地・小規模・複式校にとってICTがリモート教育としては最適だということで早期の導入を訴えてきました。そういう点からすれば、へき地教育に時代がやっと追い付いてきたという感じです。

仕事に取り組む上で、大事にしていることは。

 仕事は量をこなさなければ、その分野に精通したビジネスマンにはなれない。政府が進めている働き方改革は楽をさせることばかりで、本当の意味で働く人が幸せにはなれない。

 私は社員に会社のためではなく、家族を幸せにするために一生懸命働けと言っている。何のために働くか目的を明確にすべきだ。同じ労働でも、やらされてやるのと自分から進んでやるのとは全く違う。目的を明確に、自ら進んで仕事をやる人は死ぬ気で頑張っても絶対に死なない。

現在、文科省は学習指導要領で「主体的で対話的で深い学び」を唱えています。また、コミュニケーション能力の向上を求めていますが、これについては。

 へき地校の特性として先程、複式形態を挙げました。一つの学級で二つの学年を教えるわけですから、先生が一つの学年を教えると、もう一つの学年はガイド学習という形で勉強します。つまりガイド学習している間、生徒は自分たちで課題を見詰めながら、互いに話し合って問題を解決しなければなりません。それはまさに「アクティブ・ラーニング」と言えます。

 一方、コミュニケーション能力に対しては、少人数ですので意識して育てている面はあります。ただ、大規模校だからコミュニケーション能力が伸びるというわけではありません。

 北海道教育大学の研究調査ではむしろ小規模校の方がコミュニケーション能力は上がるという結果もあります。私の体験から、小学校が閉校する前に統廃合校する学校とスムーズに学習できるように1年前から合同で学習をするのですが、むしろ閉校する児童の生徒の方がよく発言していたという印象があります。というのも、複式学級では授業中に必ず発言する機会が出てきます。生徒はそれぞれが発言しなければ授業が進まないので自ずとコミュニケーション能力が高まるのです。

へき地・小規模・複式校は、ある意味で魅力的だと思うのですが、赴任を希望する若い先生は増えているのでしょうか。

 長崎県や鹿児島県は離島や小規模校が多く点在するため、県の教育方針として教員は必ず一度はへき地校で教えることを前提に採用しています。従って、それらの県では比較的若いうちに先生方はへき地校へ赴任するようです。確かに、へき地校に行けば、先生方の教育技術が上がります。複式学級では目も耳も半分は一方を見ながら他方を指導しなければなりません。

 地域との連携も家族ぐるみ、地域ぐるみで参加し、親身にならなければ共感を受けることはできません。そうした中で教師として揉まれていくわけですから自ずと教育技術は上がっていきます。ただ、教育大学などを卒業して都市部の学校に採用されると、都会の魅力に惑わされる教師も多いのではないでしょうか。

全国へき地教育研究連盟が設立しておよそ70年近くがたちますが、今後どのような展開を望んでいますか。

 当連盟は昭和27年、当時、地方で活動していたへき地教育の組織団体を文部省が一つに束ねる形で設立しました。現在、加盟校は約3000校、会員は3万人に及びます。「地域にへき地はあっても教育にへき地はあってはならない」を合言葉にこれまで取り組んできました。

 少子化という時代の流れの中で、われわれが取り組んできた内容がいろいろな教育分野で活用されると思いますが、へき地・小規模・複式校として今後は大学や研究機関、さらに地域との連携を深めながら活力ある教育を創り上げていきたいと考えています。