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水俣条約発効、水銀による被害拡大を防げ


 水俣病の原因となった水銀の使用や輸出入を国際的に規制する「水俣条約」が発効した。

 多くの被害者を出した水俣病をきっかけに、国内では使用削減の動きが進んだ。だが、途上国では排出が増え続けているのが現状だ。健康被害の拡大を防ぐため、日本が果たすべき役割は大きい。

 製品製造や輸出入を禁止

 この条約は、2013年10月に141カ国・地域から首脳、閣僚を含む政府関係者ら約1000人が参加し、熊本市で開かれた国連の会議で全会一致で採択された。条約名は、日本政府が「水俣病と同様の公害を繰り返さない」との思いから提案したものだ。

 水俣病は、工場排水中のメチル水銀化合物に汚染された魚介類を住民が食べたことで発生した。主な症状として、手足の感覚障害や運動失調、視野狭窄、聴力障害などが挙げられ、患者は今も苦しんでいる。

 日本は16年2月に条約を締結。今年5月には締結国数が発効に必要な50カ国に達した。今月14日までに世界最大の排出国の中国など74カ国・地域が条約を締結している。

 条約は、一定量以上の水銀を含む蛍光灯や体温計などの製造や輸出入を20年までに原則的に禁止。輸出入できる水銀の用途を研究目的などに限定し、人為的な排出を削減する。発効後には新たな水銀鉱山の開発も禁じられ、15年後には既存の鉱山でも採掘ができなくなる。被害防止に向け、条約の着実な履行が求められる。

 国内では、法律で製造や輸出入の規制を強化してきた結果、水銀需要量はピークだった1964年の約2500㌧から2014年度には5・4㌧まで減少している。政府は今後、国内の水銀廃棄物の管理を強化する方針だ。

 だが、途上国では適切に管理されずにさまざまな用途に利用されている。使用が最も多い分野は、個人や零細業者による小規模な金の採掘で、アジアやアフリカ、南米などで広く行われている。

 鉱山で採取した砂や鉱石に水銀を混ぜて合金にし、加熱して水銀を蒸発させると金だけを取り出せる。これによる水銀の大気への排出量は全体の37%を占めると推定されている。

 フィリピンでは約35万人がこの作業に従事し、うち約1万8000人は女性や子供とみられている。気化した水銀を直接吸い込むことによる水銀中毒も懸念されている。

 条約では貧困層に配慮し、発効後も当面、こうした採掘を行うことはできる。しかし健康被害の拡大を防ぐには、一刻も早く水銀を使わない採掘法へ移行させる必要がある。日本は技術や資金の面で途上国に協力すべきだ。

 途上国で知識広めよ

 途上国では、健康被害に関する知識が乏しいことも問題になっている。

 水俣病を経験し、知見を持つ日本は、大気や水の水銀濃度を測る技術のノウハウを提供するプロジェクトを東南アジアで展開している。こうした知識を広めることにも力を入れなければならない。