比大統領選、中国利するだけの人権主軸で国家の主権に触れぬ朝日社説

ドゥテルテ大統領と習近平国家主席=北京、2019年4月(UPI)

融和路線を産経警戒

9日投開票のフィリピン大統領選挙で、フェルディナンド・マルコス元上院議員が圧勝を果たした。かつて独裁政権を率いた故マルコス大統領の長男だ。

産経は12日付社説「マルコス比大統領 対中融和路線で良いのか」で、「国際社会の最大の関心事は南シナ海の安全保障政策であり、力ずくの海洋進出を続ける中国とどう向き合うかだ」とドゥテルテ政権の「路線継承」を掲げるマルコス氏に対し、習近平政権から一本釣りの対象に再びされてしまう懸念を表明した。

ドゥテルテ大統領は、フィリピンが提訴し中国の南シナ海での領有権主張に根拠はないと認めたハーグの仲裁裁判所の判決を棚上げし、対中融和路線による経済的利益を優先した。

同社説は、対中融和路線の踏襲が「極めて危険」であり、「『自由で開かれたインド太平洋』の実現を目指す日本と米国はマルコス氏への働きかけを強め、中国への警戒を喚起しなければならない」と説いた。その上で2016年の国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所の判決を「ルールに基づく国際秩序を維持するために絶対に譲れない一線であり、中国の拡張主義を封じるよりどころとせねばならない」と主張している。

経済の餌に釣られて中国ににじり寄れば、安全保障という国家がよって立つ土俵そのものが侵されかねないリスクに対し警鐘を鳴らした直球型社説だ。

朝日は強権路線懸念

これに対し朝日は12日付社説「フィリピン 強権を引き継ぐ危うさ」で、人権を基線に取った座標軸で今回の比大統領選挙を論じた。同社説では、ドゥテルテ大統領の強権路線を継承するというマルコス氏の危うさを懸念してみせる。産経は対中融和路線のリスクを説いているが、朝日が言うのは人権侵害の強権路線だ。

「ドゥテルテ氏は、人権を軽視した強権的な手法で知られる。超法規的な麻薬取り締まりで警官に殺害されたのは6千人を超す」とした上で「自分に批判的なメディアの取材に応じず、候補者討論会にも参加しない。代わりに頼ったのが数百万のフォロワーを持つSNSである」としてマルコス氏の選挙手法の「危うさ」も指摘する。さらに「事実に基づき議論し、相手の意見にも耳を傾ける。その姿勢がなければ、民主主義は形骸化し、社会の分断が進む」と総括する。

一見すると人権擁護の旗手のようにも見えるが、一本調子の人権主軸論で現れたのは朝日の馬脚だ。社会の分断を言うなら、人権と国家の主権を分断している論調こそ危うい。

国家の主権なくして、人権は擁護されない。無論、国家の主権が人権を侵害することはあってはならないが、国家の主権を守りぬく覚悟なしに国民の人権も守ることはできない。国家の主権を守り抜かなければ、人権は根こそぎ持っていかれることは600万人以上の国民が難民となって国を追われ、海外に避難しているウクライナの現実を見れば一目瞭然だ。

朝日は人権こそ声高に叫ぶが、「国家の主権」問題には口をつぐむことが多い。しかもその矛盾を見て見ぬふりをする偽善を内包する。その矛盾とは、人権擁護を盾にした制裁が中国パワーを招き入れてしまうという現実にある。

つまり人権擁護の視点から、強権的施政に西側諸国の制裁が科されれば、そうした手法にこだわらず内政不干渉を貫く中国の一層の接近を招き入れてしまうことになりかねない。安全保障を含めた全体を俯瞰(ふかん)することなく人権問題のみに注力することの矛盾が、ここにある。

「角を矯め牛殺す」愚

折しも12日付各紙は、ブラックホールの撮影に成功したニュースを大きく扱ったが、朝日は「人権ブラックホール」に吸収されてしまっている感を強くする。人権のみあげつらい、守るべき国家の主権をないがしろにするのは「角を矯(た)めて牛を殺す」愚を犯すことになりかねない。

(池永達夫)