ロシアの「嘘と暴力の共犯関係」を指摘した慧眼も中国には曇る東京

党創建100年の記念式典で演説する習近平国家主席(2021年7月1日、新華社国営通信)

停戦の仲介役を期待

「暴力はそれ自体だけでは生きていけない。常に嘘(うそ)と結び付いている。嘘だけが暴力を隠すことができ、暴力だけが嘘をつき通すことを可能にする」

ソ連の反体制作家・ソルジェニーツィン氏の言葉を冒頭に据えた東京の3日付社説「週のはじめに考える 嘘と暴力の共犯関係」の一節だ。

同社説では、文豪が指摘した「嘘と暴力の共犯関係」がロシアのウクライナ侵略でも「鮮明に表れてい」ると指摘。「官製メディアは体制に都合のよい偽情報をばらまいて国民の目をくらまし、嘘で暴力の隠蔽(いんぺい)を図ってい」るとし、国民に侵略戦争の実態が伝わらないように厳しい言論統制を敷くプーチン露大統領を弾劾する。

結論も文豪の言葉「真実のひと言は全世界を凌駕(りょうが)する」で締めくくり、「平凡な勇気ある人ができる簡単なことは、嘘に参加しないこと。嘘の行動を支持しないことだ」と強調する。

的を射た正論だと思う。

ただ惜しむらくは、ロシアに向けた慧眼(けいがん)が中国に対しては曇っている点だ。

3月19日付で掲載した東京・社説「中国の対ロ姿勢 率先して停戦へ行動を」では「緊密な関係にあるロシアに他国よりも強い影響力を持つ中国は、率先して停戦を求める行動を起こすべき」だとプーチン大統領に停戦の引導を渡す役割を中国に求める。

さらに同社説は「中国は、世界の平和と経済の安定に大局的な見地から貢献すべきだ。それでこそ、世界第二の経済大国として尊敬もされよう」と期待を込めたメッセージを送る。

強権を用い民族弾圧

だが、「嘘と暴力の共犯」で政権維持と強大化を図ろうとする国はロシア一国だけではなく、中国でも鮮明だ。

北京政府はチベット自治区や新疆ウイグル自治区で宗教と言語を奪って民族のアイデンティティーをなくす同化政策を断行している。英米仏は中国のこうした暴力的強権を用いた民族弾圧を「ジェノサイド(民族抹殺)」として糾弾している。これに対し、北京政府は「世紀の嘘」でしかなく「都市伝説」にすぎないと言い張るだけで、現地におけるジャーナリストの自由取材を認めようとはしない。

新疆ウイグル自治区だけでも100万人以上が収容されているとされる強制収容所がないのなら、期間限定でもいいからジャーナリストや国際機関に公開調査の門戸を開くだけで欧米諸国の批判の口を簡単に封じることができるのに、それをやらないのは「暴力を嘘で糊塗(こと)しようとしている」と勘繰られても仕方がない。

そもそも1949年の中華人民共和国建国直後、チベットとウイグルに侵攻し、力で領土を拡張していったのが中国だ。そうした国柄の中国にウクライナを侵略したロシアの停戦に向けた仲介役を期待するというのは、東京がいかにお花畑的言論空間に生息しているかが分かろうというものだ。

中国はこれまでにも、イランの原油や北朝鮮の石炭を買い入れ、欧米制裁の網に穴を開けてきた。バイデン米政権のリベラルな国際秩序を守るために、中国が行動することはない。むしろ欧米の力をそぎ落とし、世界の覇権構造を根底から変えたいと思っているのが中国だ。

100年マラソンを走る中国が目指しているのは、世界一の経済軍事大国にのし上がり、建国100年を迎える2049年までに世界の覇権国への切符を手にすることだ。なお軍事力増強を押し進める中国は、世界第2位の軍事大国であるロシアの軍事技術は垂涎(すいぜん)の的だ。

侵略への誘惑止めよ

今回、最も注意を要するのは、中国がロシアに貸しをつくることで、ロシア先進兵器の設計情報や最先端の核技術情報が中国人民解放軍の手に渡ることだ。

その意味でも中国に求めるべきは、ロシアの蛮行を止めるストップ役ではなく、極東におけるロシア的侵略への誘惑を断ち切ることだ。そのための第一条件は、力の空白を生むような地政学的状況を決してつくらないことだ。

(池永達夫)