ロケツーリズムの魅力 どんな場所でもスペシャルに

―ロケーションジャパン編集長 山田 実希さんに聞く

わくわく感創出の一工夫 ロケ地で誘客と地域活性化へ

映画やドラマを機としてロケ地を訪ね、その土地のファンになることを「ロケツーリズム」と呼ぶ。観光資源としてだけでなく、地域活性化にも役立つことが期待されている取り組みだ。国内唯一のロケ地情報誌「ロケーションジャパン」編集長の山田実希さんに話を聞いた。(聞き手=佐野富成、撮影=石井孝秀)

 ――山田さんがこの仕事を始めたころは、ロケ実績を観光誘客につなげられている自治体はまだ少なかったと聞いている。

転職でこの仕事を始めたのは14年ほど前だが、当時だと各自治体はロケ誘致だけで終わっていた印象だ。「映画を誘致すれば冬ソナみたいになる」とか「大河ドラマと朝ドラを呼べばいい」とか、とにかく大きな作品を求めており、普通のドラマや情報番組などは無視されているような状態だった。取り組みを始めても、議会からロケを誘致して効果があるのかと指摘されて担当部署がなくなったり、年間予算も人員も削減されてしまう自治体もあった。

私も最初は会議などに参加しながらも、そういった事例が本当にできるのか分からなかった。ただし、映画「世界の中心で、愛を叫ぶ」や韓国ドラマ「冬のソナタ」のことは知っていたので、作品の力で人が動くということは知っていた。それを戦略的にできるならすごいことだと思ったので、自分の仕事に目的意識や意義を感じ、それが今に至っている。

やまだ・みき 関西出身。広告制作会社を経て、2013年に国内唯一のロケ地情報誌「ロケーションジャパン」の編集長に就任。映画・ドラマの現場取材や役者・監督インタビューのほか、各地で発足するロケ支援組織や地域産品を活用した物産開発チームの設立にも立ち会う。

 ――ロケツーリズムに求められるポイントは。

取材しながらロケツーリズムに必要な指標を四つにまとめている。行きたくなったロケ地をアンケートで算出する「支持率」、撮影隊がスムーズに撮影できるかどうかの「サポート支援」、作品の世界観をその場所で味わえるかどうかの「行楽度」、そして作品によって生じた「地域の変化」の四つだ。

例えば、行楽度はロケ地マップを作ったりなど、観光につながる施策が出来ているかが肝心。施策だけでなく、撮影当時の様子を臨場感たっぷりにしゃべってくれる「語り部」の存在なども大きな価値を生み出している。

別にその作品を知らずとも、過去にある映像作品が撮られた地域だと知るだけで訪れた人は楽しめる。もし自分が今座っている椅子に以前、有名な俳優が座っていたと聞くだけでも、それは印象に残る体験になるだろう。そういうわくわくする気持ちを生み出せるような仕掛けをどのくらいつくれるかに懸かっている。

さらにその活動によって地域に変化があったのなら、市民に伝えていくべきだ。誰でも知っているバラエティー番組に自分の地元が出てくるだけでも、住民としては認められたようなうれしい気持ちになるし、伝え方によってはシビックプライド(都市に対する市民の誇り)につながる。具体的には経済効果や人にどのくらい動きがあったのかを数値化し、マスコミへ周知していく。

情報発信する際、俳優が映っているシーン写真を活用して、わが町はこの撮影が行われた場所ですと言えるかどうかも大事。これには権利問題も絡むので、対応や方法について自治体に説明・指導を行うことも私たち編集部のミッションの一つだ。そして、そのニーズは高まっていると手応えを感じている。

 ――この仕事を始める前にロケ地巡りをした経験は。

昔から好きだった。最初に興味を持ったのは映画「瀬戸内少年野球団」の犬島だ。現在は現代アートの島としても知られているが、当時は観光整備もされておらず、廃虚や製鉄所跡地が目立っていた。ただ、港町の風景など近所にはない異世界感が衝撃的で、どうしても行ってみたいという気持ちになった。

ネットのない時代なので情報を得る手段は限られていたが、映画好き同士の口コミを頼りにしたり、瀬戸内に旅行に行った人から話を聞いたりしてその場所を探した。ただし、今思えば私が見つけた所は正確なロケ場所ではなかったかもしれない。しかし、その時は「見つけた!」という感動でとてもうれしかった。

ロケ地巡りの醍醐味(だいいごみ)は、そこに行けば作品の世界観を味わえるという感動だけではない。「ロケ地」であることはあくまでも入り口であり、確かに最初は感動するが、その後は地域の人との触れ合いなどを楽しめるのがロケツーリズムの魅力だ。地域の良さを実感する中で、この場所をロケ地として選んだ監督の気持ちが分かったような気分になれるのも良い。

 ――これから目指すべき目標は。

ロケツーリズムの取り組みを続けることで、住みたい町ランキングの上位になった千葉県いすみ市、ふるさと納税の納税額が上がった長崎県島原市などのモデルケースが出てきた。

国内唯一のロケ地情報誌「ロケーションジャパン」=本人提供

各自治体でロケツーリズムの取り組みを行う際、警察や消防などのトップにも来てもらい、理解を仰ぐことも増えている。地域内でさまざまなセクションの人々だけでなく地域同士でも連携できるようになれば、海外作品の誘致や受け入れも今よりスムーズになるだろう。

ただ以前、ある県の方が事務所を訪ねて来た時に聞いた話だが、その県には映画の大作で使われたロケセットがある。その設置場所は一般人が行くような所でなく、観光につながりそうにないという。もったいないことだが、映画のためのセットなので、そういう事例はまだまだ多いのだろう。だが、その先のことを考えていれば、設置場所やつくりも違うものだったかもしれない。

今後は多くのメンバーを育てて、各地に支部をつくっていきながら、ロケツーリズムのノウハウをより広く伝播(でんぱ)し、ロケ地を活用すれば地域の活性化につながるという認識を今より高めていきたいと思う。

「実はここは〇〇の撮影場所だった」と分かる情報や仕掛けだけで、どんな場所でもスペシャルになれる。今から旅行に行く所が、何のロケ地かどうかをチェックする、そういった旅の仕方がメジャーになれるよう、みんなが喜べる工夫を模索し続けていきたい。

【メモ】山田さんの入社当初、雑誌でもロケ地の紹介くらいで、「ロケ地の楽しみ方」という観点はまだ薄かったという。その後、ロケ地と旅とをつなげる接着剤の工夫がいると感じ、その試行錯誤を今も続けているという話が印象的だった。記者自身も旅行先でロケ地の案内などを見つけたら、どんな工夫が凝らされているのかチェックしてみたいと感じた。